陰日向に咲く儚花

日向主任と契約と誓いの握手を交わしたあの後、わたしたちは普通に食事を済ませ、日向主任の車で自宅マンションの近隣まで送ってもらい、わたしは帰宅した。

すると玄関に入り、玄関に並ぶ靴の中に見覚えのある靴を見つけたわたしの心が吐き気を催す。

(入りたくない······)

そう思いながらもわたしはパンプスを脱いで、リビングへと重たい足取りで向かった。

そしてドアを開け、リビングを覗くと、そこには「おかえりなさい。こんな時間に帰宅なんて、良いご身分ね。」と嫌味を吐く、かなり不機嫌そうな義母の姿があったのだ。

その隣には、してやったりな表情を浮かべ、これからわたしが雷を落とされるであろう事をワクワクした様子で待つ竜介が座っていた。

「お義母さん、いらっしゃってたんですね。」

わたしはそう言いリビングに入ると、食卓テーブルにバッグを乗せる。
義母はそんなわたしを睨み付けながら「息子の家に来て、何が悪いの?」と冷たく放った。

「とりあえず、こちらへいらっしゃい。」

そう言って、義母はわたしを呼ぶと、自分たちはソファーへ座り、わたしには床に正座をするように命じた。

「菫さん、今何時だと思ってるの?」
「今は21時34分ですね。」
「そんな事、訊いてるんじゃないのよ!!!」

急に声を荒げる義母の声が耳にキーンと響く。

義母は「こんな時間まで、ご主人様を放って何してたの?!」と言って、怒りを加速させていった。

「同僚と食事に行ってました。竜介さんには連絡を入れてありましたけど。」

わたしはそう言ったが、連絡をしていたかどうかが義母の中では問題ではなく、竜介を残して出掛けた事が気に食わないようだった。

(今日は珍しく沙瑛さんのとこに行かなかったんだなぁ。日向主任にあんなこと言われたから、警戒してやめたのか?それとも、腹いせにこんなことしてるのか······)

「俺は何度も連絡したんだけど、菫から返信もなければ、電話にも出ないし、心配で母さんに来てもらったんだよ。」

"俺は心配してた"オーラを出しながら、得意の"優しい夫"を演じる竜介。

わたしのスマホに竜介からの連絡は愚か、着信さえ一件もきていない事はわたしは確認済みだった。

「連絡なんてきてないけど。」

わたしはそう言い返したが、息子の言葉を信じる義母は「そんな嘘ついたって無駄よ!」と口を挟んできた。
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