陰日向に咲く儚花
そしてこの日は、橋口さんに代わり9時からの出勤だった為、17時で仕事を上がる事が出来た。
「野花さんがこの時間に帰るなんて初めて見るなぁ。」
わたしがレジ対応で帰れなくならないよう、17時に売場の様子を見に来てくれた日向主任が言う。
わたしは「わたしもいつぶりか分からないくらい、この時間に帰るの久しぶりですよ。」と言い、そんなわたしに日向主任は「ほら、今レジが落ち着いてる内に帰りなよ。俺、レジ見とくから。」と言ってくれ、わたしはお言葉に甘え「じゃあ、お先に失礼します。」と、いつもよりも早く帰宅する事が出来た。
(こんな明るい時間に帰れるなんて、何か変な感じ。)
外に出て、青空が微かにオレンジ色に染まり始める空を見上げ、わたしはそう感じた。
(久しぶりに早く帰れたし、買い物してから帰ろう。)
わたしはそう思い、夕飯の食材を買い出ししてから自宅マンションへ帰宅する事にした。
自社スーパーではなく、自宅近隣のスーパーで買い物を済ませたわたしは、エコバッグを抱えながら自宅の鍵を開ける。
すると、鍵を開けたはずなのに、ドアノブを引いても扉は開かず、わたしは(あれ?)と不思議に思う。
(朝、鍵締めたよね?もしかして、竜介いるの?)
そう思いながらわたしは再び鍵を差し込み、解錠する。
それから再びドアノブを引くと、扉は開き、やはり鍵がかかっていなかったようだ。
今日は確か竜介は仕事が休みのはず。
職場で沙瑛さんの姿も見ていない為、二人で休みを合わせて出掛けていると思っていたのだが、わたしの勘違いだったのだろうか。
わたしが扉を開け、玄関を見ると、そこにはわたしの物ではない、綺羅びやかなヒールの高い靴が置かれていた。
(えっ、この靴って······)
わたしは嫌な予感をさせながら、そのハイヒールを見つめる。
すると部屋の奥から微かに物音が聞こえてきた。
いや、物音だけではない、人の声···――――
それもただの人の話し声ではなく、女性の吐息にも似たいやらしい声だった――――