陰日向に咲く儚花
一頻り泣いて、だいぶ落ち着いてきたわたしは、日向主任に自分が見た光景の話をした。
そして、その事に自分がショックを受けてしまった事に驚いた気持ちも話した。
日向主任はわたしの話を遮る事なく聞いてくれて、それからわたしが「あんな家に帰りたくない······」と呟くと、私の肩を抱き、そっと頭を撫でてくれた。
「そんなの当然だよ。」
「···今日は、どこかビジネスホテルを探して泊まろうと思います。明日は仕事が休みなので、今後の事をゆっくり考えたいですし。」
わたしがそう言うと、日向主任は迷う事なく「うちにおいでよ。」と言い出した。
その言葉に驚くわたしは「えっ、いや、そんなわけには······ご迷惑になりますし。」と遠慮した。
しかし日向主任は「迷惑なわけないじゃん。だって、いずれ再婚したら一緒に住む予定だったでしょ?それが早まるだけだよ。」と言って、わたしに優しく微笑みかけてくれた。
「それに、俺を頼って連絡くれた事、嬉しかったんだよ。だから、ねっ?」
そう言う日向主任は、まるで漫画に出てくるヒーローのようにニカッと笑って見せ、その姿がわたしにとってはこれ以上ない程の救いに感じた。
そしてわたしは、日向主任のお言葉に甘え、日向主任の自宅に泊めてもらう事にした。
日向主任の自宅は、わたしの自宅とは逆方向にあり、自宅から離れていた事は有難かった。
大きな灰色の新築マンションの5階、503号室。
そこが「我が城へようこそ。」と日向主任がわたしを迎え入れてくれた、わたしの新しい帰る場所となった。
「もう自分の家なんだから、好きに使っていいからね。あ、そうそう。忘れない内に渡しておくよ。」
そう言って、日向主任がわたしに差し出したのは、自宅の鍵だった。
「···いいんですか?」
わたしがそう訊くと、日向主任は「鍵がないと困るでしょ?」と言い、わたしの手のひらに鍵を乗せ、握り締めさせた。
「寝室は野花さんが使っていいからね。」
「えっ、それはダメですよ。わたしはソファーをお借りしますから。」
「ダメだよ!レディーをソファーで寝かせるわけにはいかない!」
「でも······」
わたしが困惑していると、日向主任は眉を下げ「頼むよ。俺のベッド使って?今から、未来の奥さんを大切にしたいんだよ。それに······」と言い、何かを言い掛けた。
「それに···、何ですか?」
「あ、いや···、二人でベッドで寝るのも有りかな〜?なんて、一瞬思ったけど、それはまだダメだ!ダメダメ!」
「わたしは、平気、ですけど······」
わたしはそう言ったが、日向主任は珍しく照れくさそうな表情を浮かべ、「俺が平気じゃないんだよ。好きな人が隣で寝てる状態で、眠れる自信がない。」と言って、落ち着かない様子で首筋あたりに手を置いていた。