陰日向に咲く儚花

そんな日向主任の姿が何だか可愛らしく見えて、わたしはクスッと笑った。

すると日向主任は「俺、こう見えて真面目だから!」と言いながら、照れくささを誤魔化していた。

「あ、それから一つ、野花さんに言いたい事がある。」
「何ですか?」
「もう、"野花さん"って呼ぶのはやめるよ。あんな課長と同じ苗字で呼びたくない。だから、これからは"菫さん"って呼ぶね?」

日向主任がそう言った後、わたしは「分かりました。」と微笑んで見せた。

(菫さん、かぁ······。何だか嬉しいなぁ。)

「それから、これは俺の願望なんだけど······」

日向主任は遠慮がちにそう言った後、「俺の事も下の名前で、呼んでくれたりしたら、嬉しいなぁ···なんて。」とまるで独り言を呟くかのように言った。

わたしはそんな日向主任の願望に答え、日向主任の事をこう呼ぶ事にした。

「分かりましたよ、慈さん。」



そして、その日の夜。
わたしは日向主任、改め、慈さんの寝室のセミダブルのベッドで寝かせてもらった。

しかし、あんな光景を見てしまったあとなので、なかなか寝付く事が出来なかった。

わたしは枕元に置いていたスマホに手を伸ばすと、LINEを開いた。

トーク履歴の一番上には、竜介の名前があり、未読のメッセージが増え続けていた。

(竜介は、あれを見られたことに気付いてないんだなぁ。)

それから、竜介の名前の下には慈さんの名前があり、わたしは慈さんとのトーク履歴を開いた。

そこでわたしは初めて、慈さんに送っていたメッセージの内容に気付く。

『たすけて』

わたしは、その4文字だけを慈さんに送っていたのだ。

(わたし、こんな事送ってたんだ······)

あの瞬間の事はあまりにショックが大き過ぎて、よく覚えていない。

しかしわたしは、そんな時に一番最初に慈さんに助けを求めていた。

そのトーク履歴を見て、わたしの中での慈さんの存在の大きさを実感した瞬間だった。
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