陰日向に咲く儚花
そして、夜中まともに眠れなかったわたしが目を覚ましたのは、午前11時過ぎ。
既に慈さんは出勤した後で自宅に姿はなかった。
ただ、リビングのテーブルの上には『今日は20時半までには帰ります。いってきます!』と、男性にしては綺麗な読みやすい慈さんの字で書かれた書き置きがあった。
(今日は20時までなのかな。お見送りしたかったなぁ。)
わたしはその書き置きを手にしながら、改めて慈さんの家のリビングを見渡した。
竜介が"家事は女の仕事"という考えで何もしないタイプの男だった為、どうしても男性の部屋が綺麗なイメージはなかったが、慈さんの家は片付いていて割と綺麗だった。
家具はダークブラウンで統一されており、最低限の物だけですっきりしている。
黒い近いような濃いグレーのラグに、ライトグレーのソファーの上には、チョコレート色のクッションが2つ。
カーテンが開き光が差し込む大きな窓辺には、観葉植物が置かれていた。
わたしはとりあえずソファーに座り、静かなリビングで一人ぼんやりしながらも今日自分がすべき事を考えた。
その前にわたしはまずスマホを開くと、未読メッセージが溜まりに溜まった竜介からメッセージを確認した。
予想範囲内の言葉ばかりがズラッと並ぶ竜介からのLINE履歴。
『どこに居るんだ』
『帰って来い』
『俺を無視してどうなると思ってる?』
『俺の飯は?』
『母さんに連絡したから』
『いい加減にしろよ!』
『母さんがめちゃくちゃ怒ってるぞ!』
そんな言葉ばかりがズラリと並んでいた。
この人は"心配"という言葉を知らないんだろうか。
自分の事ばかりで、また"母さん"を召喚させたのか。
呆れ果てたわたしは、そのままLINEを閉じ、スマホをポイッとソファーの上へと投げ置いた。
(もう顔も見たくない······)
そんな事を考えながらわたしは、当然ではあるが、明日から通常通りに仕事に行かなくてはならない為、着替えを取りに行く必要があった。
帰りたくはないが、あの家に着替えを取りに行かねばならない。
それから夜は、慈さんの帰宅に合わせてご飯を作って待っていよう。
そう考えたわたしは13時あたりからやっと行動に移し始めた。
今から行けば、この時間帯なら竜介が家に居る事はない。
簡単に身支度を整えたわたしは、バスを使い、昨日までは"帰る場所"だったはずの家へと重い身体を引きずりながら向かったのだった。