陰日向に咲く儚花

「慈さんって···、どうしてまだ独り身なんですか?」

丁度、慈さんがお茶を飲もうとするタイミングで、わたしはそう問い掛けた。

慈さんはわたしの質問に「ぶっ!」とお茶を吹き出しそうになり、慌てて口を押さえると「ちょっ!何を言い出すかと思えば!どうしたの?急に。」と驚いていた。

「ふと疑問に思ったので、訊いてみました。」
「いや、どうしてと言われてもなぁ······」
「だって、慈さんって正直モテますよね?」
「えっ?んー、まぁ、それは否定出来ない。」
「ですよね?それなのに、どうしてなのかなぁ〜って。優しくて気も利いて、包容力だってあるのに。」

わたしはそう言いながら疑問を宙に並べて見上げた。

「菫さんにそんな褒められたら、照れるなぁ。」
「褒めてるというか、思った事を言っただけで······。バツイチとかではないんですか?」

わたしがそう訊くと、慈さんは「バツはついてないよ。ついてたら、菫さんにきちんと話してるから。」と笑っていた。

「じゃあ、結婚願望がなかったとか?」
「そういうわけでもないよ。まぁ、結婚を考えてた人は過去に居たけどね。」

慈さんはそう言うと、吹き出しそうになって飲めなかったお茶を飲み直していた。

「そうなんですね。」
「これでも5年前までは婚約者がいたんだよ?」
「でも、結婚しなかったんですか?」
「うん。プロポーズして、ブライダルチェックまでして、あとは両家の親に挨拶をしてOKしてもらうだけだったんだけど···、相手のご両親に反対されたんだ。」

平然そうに話す慈さんだったが、その口調はどこか切なく、わたしはデリカシーのない質問をしてしまった事を悔いた。

「反対理由がさ、俺の年収が低い事だったんだ。当時はまだ主任にもなってない普通の社員で、給料も高いとは言えなかった。だから、その年収なら安心して嫁にやれないって、言われちゃってさ。」

確かにわたしたちが勤める"ReON株式会社"は、名前がよく知られる企業ではあるが、正社員でも給料が高いと言えるほど貰えてはいなかった。

役職がつくに連れ、給料は上がっていくが、それでも役職がついたからといって大幅に給料アップするわけではない。
課長や部長クラスまでにならないと、やっと安心出来るくらいにまでならないのが本音だった。
< 50 / 114 >

この作品をシェア

pagetop