陰日向に咲く儚花
森田さんの姿が見えなくなると、吉光さんは小声で「大丈夫?何か言われてたんでしょ?」と気に掛けてくれた。
わたしは「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」と言うと、吉光さんに微笑んで見せた。
「もう菫ちゃんが可愛いからって、嫉妬してんのよあの人。さっき"わたしたちまで手伝わされた"とか何とか聞こえてきたけど、全然よ!ホームファッションなんて何もしてないから!菫ちゃんの代わりに頑張ってたのは、日向主任と木浦主任と橋口さんくらいよ。」
吉光さんの言葉に(やっぱりなぁ。)と思いつつ、「でも、ご迷惑を掛けた事には変わりないので。」と言ったが、吉光さんは「そんな事、気にしなくていいのよ!」と言ってくれた。
「身体は?もう大丈夫なの?」
「はい、お陰様で元気になりました。」
「良かった良かった!過労だったんでしょ?菫ちゃん、働き過ぎだったもんね。」
「でも、自分で体調管理出来てなかったのもダメでしたね。」
「体調管理なんてね、ロボットじゃないんだから気を付けてたってダメな時はダメなのよ!」
そう言って、バンッとわたしの腕を叩く吉光さんは力強かった。
「あと、あの野花課長のせいでもあったんでしょ?」
小声で竜介の話をし出す吉光さん。
どうやら、社内に竜介の色んな噂が飛び交うようになっているらしい。
「病院で暴れて、警察呼ばれたって本当?」
「あぁ······まぁ、大声を出してしまって···呼ばれてましたね。」
「やっぱり?野花課長って、モラハラ気質なんでしょ?愛妻家気取ってたけど、わたしには分かってたわよ?」
そう言って、お喋り好きの吉光さんの話は止まらない。
わたしがそろそろ業務に戻りたいと思っていると、吉光さんに捕まっているわたしに気付いた慈さんが「あー、吉光さん、菫さん。おはようございます。」と声を掛けに来てくれた。
それによって、やっと吉光さんのマシンガントークが終了し、吉光さんは「あら、日向主任!今日も爽やかね!」と言って、慈さんの腕をバシッと叩いていた。
この吉光さんの叩く癖は、よく見掛けるおばちゃん特有の癖なのだろうか。
「吉光さんこそ、今日もお元気そうですね。」
「元気だけがわたしの取り柄だからね!あ、ほら、チョコレートあげる!」
そう言って、吉光さんは慈さんにもチョコレートを渡すと、「じゃあ、菫ちゃん!またね!」と言い、ギフトコーナーへと戻って行った。
「吉光さん、今日も強烈だなぁ。」
そう言いながら吉光さんの背中を見送る慈さんは、ふとわたしの方に視線を移すと、「菫さん、おかえり。」と言ってくれた。