陰日向に咲く儚花
そして、わたしは休憩を終えて売場に戻ると、季節家電の売場作りを始めた。
これから本格的な夏が始まると、夏に活躍する家電が売れるようになってくる。
扇風機をはじめ、サーキュレーターやハンディーファン、コンパクトな冷風扇も売れ筋だ。
うちの店舗は小型店なので、エアコンの現物は置いていないが、広告品としてはチラシに掲載される為、客注も入るようになるだろう。
すると、売場作りをしている途中で「あのぉ、すいません。」と女性のお客様に声を掛けられた。
わたしは一度作業を中断すると、「はい、いらっしゃいませ。」とお客様の方へ歩み寄った。
「水筒の蓋のパッキンの取り寄せって出来ますか?」
お客様からそう尋ねられ、わたしはふと周りを見回した。
水筒関連は、ダイニング担当の森田さんが発注などをしているからだ。
しかし、パッと見た感じで森田さんの姿は見当たらず、わたしは「はい、お取り寄せですね。出来ますよ。」と言うと、カウンターまでお客様を案内し、わたしが代わりに客注を受ける事にした。
お客様には名前と住所、電話番号の記入をお願いし、取り寄せたいパッキンの水筒の型番をメモさせてもらうと、お客様控えをお渡しした。
「お取り寄せには大体一週間から10日ほどかかると思います。入荷致しましたら、ご連絡させていただきますので、その際はこちらのお客様控えをお持ちください。」
わたしがそう説明をすると、お客様は「分かりました。じゃあ、よろしくお願いします。」と言い、帰って行かれた。
(さて、森田さんに発注お願いしないと。)
わたしは今承った発注書の店舗控えを持ちながら、売場内を回り、森田さんを探した。
すると森田さんはフライパンの品出しをしているところだった。
「森田さん、お疲れ様です。」
わたしがそう声を掛けると、森田さんはふとこちらに顔を向け、それがわたしだと気付くと、ムスッとした表情で何も言わずにこちらを見続けていた。
「今、客注を受けました。水筒のパッキンのお取り寄せです。」
わたしがそう言いながら、発注書を差し出すと、森田さんは差し出された発注書に視線を落とした後、再びわたしの方を見て「だから?」と言い出した。
「えっ···、発注お願い出来ますか?」
「何でわたしがやらないといけないの?」
そう言う森田さんの言葉に困惑するわたし。
(何でって、担当はあなたじゃないんですか?)
「パッキンの客注、面倒くさいのよねぇ。だから、やりたくないのよ。」
わたしを睨み付けながらそう言う森田さんの言葉に、(面倒くさいからやりたくないって······)と呆れてしまうわたし。
なかなか発注書を受け取ってくれない森田さんにわたしが(どうしよう······)と困っていると、丁度良いタイミングで慈さんが現れた。
すると、慈さんの姿を見た途端にわたしが差し出す発注書を受け取る森田さん。
「野花さん、ありがとう〜!わたしが発注しておくね!」
慈さんが現れてからの森田さんのあまりの変貌ぶりに、わたしは「あ、よろしくお願いします。」と引いてしまう。
森田さんは発注書を持ちながら「日向主任〜!」と慈さんを追い掛けて行き、わたしは苦笑いを我慢しつつ、自分の業務へと戻った。