陰日向に咲く儚花
そして思う存分、良いお肉を食べたわたしたち。
こんなに食べて胃もたれするのでは?と少し心配はしていたのだが、やはり良いお肉ともなると胃もたれ知らずなようだ。
そんな帰り際、「俺、ちょっとトイレ行って来るね。」と席を立った慈さん。
その後、慈さんはすぐに戻って来て、帰ろうと席を立ったわたしたちだったが、その時にわたしはある事に気が付いた。
「あれ?伝票がない。」
さっきまでテーブル横にあったはずの伝票が見当たらなかったのだ。
周りをキョロキョロと探すわたし。
すると慈さんは「あぁ、それなら大丈夫だよ。」と言い、その言葉にわたしはハッとした。
「もしかして、払ってくれたんですか?!」
「だって、先に払っとかないと、菫さんが払いたがると思ったから。」
そう言う慈さんの言葉を聞き、さっき慈さんがテーブルを立ったのは、トイレに行く為ではなくお会計の為だったのだと気付く。
わたしは「そんな!わたしに払わせてくださいよ!慈さんには色々お世話になってるので、わたしがって思ってたのに。」と言うと、少しいじけたように見せた。
「お祝いしようって言い出したのは俺だよ?それにこれくらい払わせてよ!俺だって、たまにはカッコつけたいじゃん?」
そう言って、「まぁまぁ」とでも言うようにわたしを宥めようとする慈さん。
(たまにはって···、いつもかっこいい癖に。)
わたしはそんな事を思いながら、「本当にいいんですか?結構な金額いきましたよね?」と訊いた。
「金額なんて気にしない!美味しく楽しく食べれたし、何より菫さんの安心した顔が見れて、俺は嬉しいんだよ!」
慈さんの優しい言葉にジーンとして、何だか途轍も無く愛おしい気持ちが湧き上がってくる。
(あぁ···、抱き締めたい。抱き締めてもらいたいっ······。慈さんが前に、自分で自分の気持ちを受け止める為に、自分を抱き締めてた事があったけど、あの時の慈さんはこんな気持ちだったのかなぁ。)
「じゃあ···、お言葉に甘えて······。ご馳走でした。」
わたしがそう言うと、慈さんは「とんでもない!」と言った後、「さぁ、帰ろうか!」と言い、わたしたちは焼肉店をあとにした。