陰日向に咲く儚花
その日の夜、わたしたちは初めて同じベッドの上で布団に潜りながら向かい合い、色んな話をした。
仕事の話、この数ヵ月間に一緒に過ごした日々の振り返り、ベッドをダブルベッドに買い替えようという話、そしてわたしたちの今後についての話···――――
慈さんがどう思ったかは分からないが、わたしはその時間が心地良くて幸せに感じた。
カラカラに乾いた土に萎れた花が必死に立とうとしている、そこに水を注ぎ、じんわりと土が潤って、花へと伝わっていく······
わたしの心はそんな感覚になり、満たされていく瞬間に浸っていた。
気付けばわたしは、安心の中で慈さんと手を繋ぎながら眠りに落ちていた。
***
「菫ちゃーん!扇風機の配送だってー!」
「はーい!」
「菫ちゃん、カウンターにトレカの問い合わせ来てる!」
「今行きます!」
「菫ちゃーん、ゲームの予約来たよ。」
「あ、はい!分かりました!」
今日は月に一度、大々的なチラシが出る売り出し日。
わたしは朝から引っ切り無しにあちこちで呼ばれ、売場を駆け回っていた。
身体がいくつあっても足りないと思う程に忙しない。
ちなみに離婚してからわたしは、下の名前で呼ばれる事が多くなっていた。
「菫ちゃん、替え芯の対応お願い出来る?」
わたしがゲーム予約の対応をしていると、ホームファッションの寝具担当、福西さんがわたしを呼びに来た。
福西さんは勤続年数が長く、今では定年を過ぎてシニアの短時間で働き続けている人だ。
(え、わたしが今ゲームの予約受けてるの見えてないの?)
わたしがそう思っていると、レジ対応を終えた橋口さんが「わたし行って来ますね!」と代わりに対応へ向かってくれた。
「あ、お願いします!」
今日もステーショナリーがバタバタと業務に追われている中、ホームファッションの人たちはお喋りをしながら余裕そうに品出しをしていた。
そんな忙しい最中、わたしはある事を思い出した。
(あ、そういえば、明日って新作ゲームの発売日だったよね。確か客注入ってたから、準備しとかないと。)
わたしはそう思い、ゲーム予約の承りが終わった後にバックルームに向かった。
しかし、いつも発売日の前日に入荷になるはずのゲームはまだバックルームには届いておらず、わたしはダミーケースの準備だけ済ませて業務に戻った。