陰日向に咲く儚花
そして、休憩を取る暇もなく終わった一日。
わたしは退勤前に再度バックルームを覗きに向かい、明日発売のゲームが入荷しているかの確認をした。
しかし、ゲームの入荷はまだ見当たらず、わたしは閉店まで居る木浦主任へ"入荷確認のお願い"についてのメモを事務室のパソコンに貼り付けてから帰る事にした。
その後、橋口さんへの引き継ぎもノートに記入したわたしは、カラカラに乾いた喉を潤そうと、"退勤"に社員証をタッチしてから、食堂へと向かった。
そして自販機の前に立ち、飲み物を選ぶ。
すると、「どれにするの?」とわたしの隣に立つ、聞き心地の良い声が響いた。
「慈さん、お疲れ様。」
「お疲れっ。今日も忙しかったね。」
「さすがに疲れました······」
「今日はあんまり手伝えなくてごめんね。」
「仕方ないですよ。ミーティングがあったんですから。」
わたしはそう言いながら、"つめたい"ミルクティーのボタンを押した。
わたしが押したボタンが点灯し、その隙にキャッシュレスで決済をしてくれる慈さん。
それから下の取り出し口に落ちてきたミルクティーを取り出す慈さんは、それをわたしに差出してくれた。
「ありがとうございます。」
そう言って受け取ったミルクティーはキンキンに冷えており、忙しさで火照った身体をクールダウンさせてくれるような気がした。
「それにしてもさ、何で忙しい日にミーティング入れるんだろうな。意味分かんないよ。」
「上の人たちは、現場を知りませんからね。」
「広告出てるのくらい把握してるはずなのに···、自分たちは現場に入らないからって、関係ないってか。」
そんな話をしていると、「あ!日向主任〜!」と聞き覚えのある猫撫声が聞こえてきた。
その声にゾッとした瞬間、慈さんの腕を掴んで慈さんを見上げる森田さんが現れた。
「お疲れ様です〜!今日忙しくて、疲れちゃったぁ。わたしも何か飲みたいなぁ〜!」
そう言いながら、自販機の商品に視線を移す森田さん。
(それは、慈さんにねだってるのかな?)
あまりにも無理があるブリッコ口調に、慈さんは引き気味になりながら「何か飲んだらいいんじゃないですか?」と苦笑いを浮かべていた。
「日向主任、奢ってくれます〜?」
「え、俺が?」
「わたし、サッパリしたいからパインソーダ飲みたいなぁ〜!」
完全に森田さんに捕まってしまった慈さん。
わたしは小声で「じゃあ、先に帰りますね。お疲れ様です。」と言うと、慈さんに"頑張れ"の意味も込めて小さく手を振り、その場をあとにした。
そして更衣室に入ると、丸椅子に腰を掛け、慈さんが買ってくれたミルクティーで一息つく。
疲れた身体に染み渡っていくミルクティーは、いつもよりも美味しく感じられた。