陰日向に咲く儚花
「何?これ。」
慈さんは不思議そうにわたしが差し出した紙を手に取り、そしてそれを開いて見た。
「···えっ?これって、菫さんの字だよね?」
「はい、わたしが木浦主任に残して帰ったメモです。」
わたしが慈さんに差し出したのは、休憩時に偶然ゴミ箱から見つけた、木浦主任宛てのメモだった。
「これ、どこにあったの?」
「ゴミ箱の中から見つけたんです。」
「ゴミ箱?!」
「はい、クシャクシャに丸まって捨てられてました。」
わたしの言葉に驚き、目を見開く慈さん。
そして「誰が捨てたんだ······」と、怒りが滲むような口調でそう呟いていた。
「分かりません。」
「木浦くんが···?いや、そんなわけないか。自分が困るもんなぁ。ってことは······」
慈さんはそう言いながら、心当たりのある人物の顔を思い浮かべているように感じた。
何となくだが、それはきっとわたしが思い浮かべた人物と同じだろう。
「何でこういう事するかなぁ······」
「誰がやったかは、証拠がないので何とも言えないですけどね。」
「いや、でも多分···"も"から始まって"た"で終わる名前の人じゃない?」
「それ、ほぼ名前言っちゃってますよ。」
そう言ってわたしがクスッと笑うと、慈さんは嬉しそうに「あっ、やっと笑ってくれたね。」と言い、再びわたしを抱き締めた。
「菫さんが笑ってくれると嬉しいよ。」
「わたし···、慈さんに助けてもらってばかりですね。」
「そんな事ないよ。俺は菫さんが傍に居てくれるだけで充分なんだ。」
そうして、しばらくキッチンで抱き締め合うわたしたち。
すると、慈さんのグゥーと鳴るお腹の音で、わたしたちは顔を見合わせて笑った。
「もぉ〜、いい雰囲気だったのに最悪だよ!」
「慈さんのお腹がキーマカレーを欲してますよ。」
そう言って笑い、キーマカレー作りを再開させたわたしたちは、この時に更に絆が深まったように感じたのだった。