陰日向に咲く儚花

そして、その数日後に沙瑛さんを見掛けた時、ふと首から下げている社員証に目がいったのだが、そこには「野花」と書かれていた。

それを見て、わたしは竜介が本当に再婚したのだと実感する。

しかし、だからといって嫉妬心など全く湧き上がってくるわけでもなく、頭に浮かんだのは(沙瑛さん、これから大変だなぁ。)という沙瑛さんの今後の事だった。

これから確実に沙瑛さんに降り掛かるのは、義母からの"孫催促"だ。

すぐに再婚したのは、義母からの後押しなのか、竜介がそうしたかったのか、沙瑛さんが望んだからなのか···――――
真実は知らないが、どちらにしても沙瑛が苦労する姿が目に浮かぶようだった。

後々分かった事なのだが、沙瑛さんは正社員からコミュニティ社員に雇用形態を変更したらしく、また竜介の扶養に入ったようで勤務時間も短くなったと衣料の人たちが愚痴を零していた。



***



「ねぇ、菫さん。次の休み、新しいベッド見に行かない?」

寝る支度をしてベッドに入った慈さんが、肘枕をしながらこちらを向いて言う。

わたしは髪をとかし終えて、布団に入り込むと、「そういえば、買い替えるって話してたのに、まだでしたね。」と言った。

「さすがに二人でセミダブルは狭いでしょ?」
「んー、まぁ···、でもわたしはそんなに気にならないですけどね。」

わたしがそう言うと、慈さんはわたしの言葉に何だか少し照れながらも「まぁ、俺もそこまで気になってるわけじゃないんだけどさ?菫さんと、くっつけるし。」と言っていた。

「じゃあ、このままで良くないですか?」
「えっ!いや、買い替えるって言っちゃったし、とりあえず見に行ってみようよ!」
「まぁ、見に行く分には問題ないですもんね。じゃあ、見に行ってみましょうか。」
「うん、良さそうなのがあれば買い替える感じで!」

そう話して、次の休みに家具屋へ行こうと約束したわたしたち。

実は交際を始めてから、わたしたちは密かに月に一度は休みを合わせるようにしていた。

シフト制の仕事をしていると、なかなかお互いの休みが合う事は難しい。
けれど、一緒に休みを過ごす日も必要だ。

その為、わたしたちは話し合い、店の売り出し日や業務が忙しくない日を選んで、二人で同じ日に休み希望を出すようにする事にしていたのだった。
< 73 / 114 >

この作品をシェア

pagetop