陰日向に咲く儚花
「慈さん、最近はちゃんと眠れてますか?」
わたしがそう訊くと、慈さんは「えっ?」と言って不思議そうな表情を浮かべた。
「前に言ってたじゃないですか。わたしが隣に居ると眠れないって。」
「あぁ、それは、まぁ、緊張してって意味でね?でも今は、ちゃんと寝れるようになったから大丈夫だよ。」
「それなら良かったですけど。」
しかし、わたしがそう言った後、慈さんは何やら目を泳がせながら「んー、でも実は、いつも寝たフリして菫さんの寝顔眺めてる。」と言い出したのだ。
「えっ?!やだ!恥ずかしい!」
「菫さんが寝息立てながら寝てる姿が可愛くてさ。ずっと見てられるんだよ。」
「やめてくださいよぉ···、わたしイビキとかかいてないですか?」
わたしが焦りながらそう訊くと、慈さんは「ははっ。」と笑った後で「大丈夫だよ!もしイビキかいてたとしても、引いたりしないし、むしろ可愛く思えるから。」と言って微笑んだ。
「でも、ベッドをダブルにしたら、この距離で菫さんの寝顔見れなくなるのかぁ〜。」
そんな事を言いながら、慈さんはわたしの顔に自分の顔を寄せた。
わたしは恥ずかしく思いながらも、目を逸らす事を我慢し、その距離で慈さんの瞳を見つめた。
「じゃあ、やっぱりベッド買い替えるのやめます?」
「えっ!いや、それはやめないよ!俺、嘘つきたくないし!」
「別に買い替えるのやめたからって、嘘ついたなんて思いませんよ。」
わたしがそう言うと、慈さんは少し恥ずかしそうに「だってさ···、やっぱりこの距離だと、俺も色々と大変なんだよ。」と言って目を固く閉じると、バッと勢い良くわたしから離れ、仰向けになって天井を見上げた。
「結婚するまで、そういうのはしないって言ったし···、俺は口だけの男になりたくないからさ。」
そんな慈さんの姿を見て、どれだけ必死に我慢してくれているのかが伝わってくる。
しかしわたしは、その事に関しては必ず耐えて欲しいと、思わなくなり始めていた。
「···別に、その事については······、約束、破っても、いいですけど······」
恥を忍んでわたしがそう言うと、慈さんは驚いた表情で「えっ?!」とこちらを向いた。
そして、わたしが言った言葉を理解すると「うわぁ〜···、女性にそんな事言わせるなんて···、俺は何やってんだぁ······」と言いながら、頭を抱えていた。