陰日向に咲く儚花
「わたしたち、結婚してまだ2ヵ月も経ってないんですよ?!それなのに···、お義母さんが···、若いのになかなか子どもが出来ないなんて、わたしに問題があるんじゃないかって、言い始めてて······」
そう言い、俯く沙瑛さん。
わたしにとっては案の定な展開だったが、沙瑛さんはまさかこうなるとは思っていなかったのだろう。
わたしは「それで、病院に行けとか言われたんじゃないですか?」と訊いてみた。
沙瑛さんはわたしの言葉を聞き、「どうしてわかるの?」とでも言いたそうな表情で「···はい。」と頷いていた。
「結婚を早めたのは、お義母さんに急かされたからなんです。竜介さんは、今年で43歳になるので、早い方がいいからって。わたしは歓迎されていると思って嬉しかったんです。でも···、まさかここまで急かされるだなんて思っていなくて······」
「···それで、どうしてそれをわたしに?」
わたしがそう訊くと、沙瑛さんは「えっ······」と少しショックを受けたような表情を浮かべた。
(どうしてそんな顔するの?わたしが共感してくれるとでも思ったの?)
沙瑛さんの落ち込むような様子にわたしはそう思った。
そう思うわたしは、冷たい人間なのだろうか。
「聞いてもらえる人が······、他に思い浮かばなくて···。森崎さんなら、分かってくれるかなぁ、なんて···甘い考えをしてしまいました。」
「わたしも同じような事で苦しんできましたからね······、あの3年は地獄でしたよ。」
わたしがそう言うと、沙瑛さんは「3年······」と呟いた。
「きっと、これからも孫催促は続くと思いますよ。それから、もし沙瑛さんが病院に行って検査を受けて、問題がなかったとしても、責められ続けるのは沙瑛さんです。竜介は、沙瑛さんの味方になんてなってくれませんよ。あの人はいつだって、お義母さんの前では"良い夫"を演じますから。」
わたしがそう話していると、沙瑛さんは見る見るうちに不安な表情へと変わっていった。
しかし、不倫相手になってまで、そんな男を選んだのは沙瑛さんだ。
わたしは同情する気など微塵もなかった。
「わたしからアドバイス出来る事があるとすれば、あの人と一緒に居たいなら耐えるのみ、ですね。あんな男をもらってくれて、ありがとうございました。その事には感謝してます。」
わたしはそう言い、作り笑顔を浮かべ沙瑛さんに一礼すると、何も言えずに立ち尽くす沙瑛さんを残し、スタスタと軽快に歩き出してバックルームをあとにしたのだった。