陰日向に咲く儚花
そして、その日の仕事終わり、わたしは久しぶりに買い物をしてから帰宅した。
(最近は慈に作ってもらってばかりだから、たまにはわたしもご飯作らないと。)
わたしはそう思い、自分がソファーに座ってしまう前にキッチンに立ち、夕飯の支度を始めた。
今日の献立は、オムライスとコンソメスープだ。
"献立"と言えるような大した料理ではないが、たまにはわたしが作ったものを慈に食べてもらいたい。
(ケチャップでハートとか書いちゃう?さすがにそれはやりすぎかな。)
そんな事を考えながら、わたしはオムライスを作っていった。
コンソメスープも簡単に作り終え、あとは慈の帰宅を待つだけとなった。
ふと壁掛け時計に目をやると、時刻はそろそろ時計の針が"20:25"を差そうとしているところだった。
(今日は20時までだから、もう少しで帰って来るよね。)
わたしはそう思いながら、やっとソファーに腰を下ろし、そして脱力するようにそのままソファーに横になってしまった。
(あ、ヤバい···ソファーに横になったら、一気に眠くなってきちゃった······)
そうして、わたしがウトウトし始めた時、遠くの方で玄関の扉が開閉する音が聞こえた気がした。
(慈、帰って来たのかな······)
寝惚けた頭でぼんやりとそんな事を思うが、瞼が開かない。
すると、「ただいまぁ〜」と言う慈の声が聞こえてきた。
しかしわたしは、そのまま寝たフリをしてしまった。
森田さんからあんな話を聞いてしまった後で、慈を疑う気持ちが晴れないまま、何も知らないフリをして接する自信がなかったのだ。
「あれ、菫···ご飯作ってくれたんだぁ······」
そう独り言を呟く慈の声が聞こえてくる。
それから慈の気配が近付いて来たと思えば、その気配はわたしの目の前までやって来た。
そして「菫、ありがとう。」と言う慈の優しい声と、温かく大きな手がわたしの頭に触れてきたのだ。
その瞬間、わたしは思わず目を開いた。
たった今起きたばかりのようなフリをしながら、ゆっくりと目を開き、慈を見上げた。
「あっ、ごめん。起こしちゃったな。」
「ううん、大丈夫。おかえり。」
「ただいま。」
そう言い合って、わたしがゆっくりと身体を起こすと、慈はわたしを抱き寄せた。
「ご飯作ってくれたんだな。疲れてるのに、ありがとう。」
「ううん。いつも慈に頼りっぱなしになっちゃってるから、たまには作らなきゃって思って。」
「出来る方がやればいいだけなんだから、そんな事気にしなくていいのに。でも、嬉しいよ。」
そう言ってわたしを抱き締める慈の首にわたしは腕を回した。
こんなにわたしを想ってくれている慈を、わたしはなぜ信じられなかったんだろう。
きっと、何か理由があるに違いない。
わたしはそう思い、このままモヤモヤし続けるのも嫌だった為、思い切って慈に小島さんの事を訊いてみる事にした。