陰日向に咲く儚花

そして、久しぶりの焼肉店に着いたわたしたちは、空腹が欲するままにメニューを注文し、今日も烏龍茶で「お疲れ!」と乾杯した。

それから特上ロースやサガリ、ネギ塩タンなどが運ばれてきて、次々と焼いていく。

慈は一番最初に焼き上がった特上ロースをわたしの皿に置いて「はい、いっぱい食べろよ〜?」と言ってくれた。

「ありがとう。じゃあ、いただきまーす。」

そう言って、特製ダレをつけて丁度良い焼き具合の特上ロースを口へと運ぶ。
そこにライスも一緒に口へ運ぶと、口の中に幸せが広がった。

「んー、美味しいー!」
「ははっ、菫は美味そうに食うよなぁ。」
「だって、本当に美味しいもん。」
「じゃあ、俺も頂こっと!」
「食べな食べな!わたしも焼くよ!」
「大丈夫だよ、俺が焼く係りするから。菫は食べるのに集中して!」

そんなわたしをお姫様扱いをしてくれる慈は、次々とわたしのお皿に焼き上がったお肉を入れていき、わたしはお腹を満たしていった。

すると、お腹も8分目あたりになってきた頃、慈が「あのさぁ、菫。」とわたしの名を呼んだ。

「ん?」
「実はさ、今日この店を選んだのには、理由があるんだ。」
「えっ、そうなの?理由って?」

わたしがそう訊くと、慈は一度トングを置き、烏龍茶を一口飲んでから、改まるようにわたしの方を向いた。

「さっきも言ったけど、ここって俺達が初めて来たお店じゃん?」
「うん、そうだね。」
「その時にした会話は、覚えてる?」

慈の言葉にあの時の記憶を呼び起こす。

(あの時は、竜介の愚痴を聞いてもらって···、離婚を決断するのに背中を押してもらったんだったよね。)

「わたしの愚痴を聞いてもらって、あとは離婚を決意したんだったよね。」
「うん、そう。それでさ、その時に俺が言った言葉があるじゃん?」

慈はそう言うと、わたしを真っ直ぐに見つめ、穏やかに微笑んだ。

「俺と、再婚しようってさ。」
< 91 / 114 >

この作品をシェア

pagetop