陰日向に咲く儚花
わたしは慈のその言葉にドキッとした。
確かにあの時、その言葉を言われた。
そしてわたしは、その言葉に対して「します!」と返事をしたのだ。
今思い返すと、わたしは何て大胆な返事をしたのだろう。
でもあの日、慈とこのお店に来て、あの会話をして、あの決断をしていなければ、今は無いのだ。
「うん、言ったね。」
わたしがそう答えると、慈はわたしの方に手を差し伸べてきた。
それからわたしは、慈が差し出すその手を掴み、わたしたちはお互いの手を握り締めた。
「菫。年が明けて、ちょっと落ち着いたら、婚姻届取りに行かない?」
「······それって、」
「うん。菫、俺と結婚してください。」
まさかの慈の言葉にまだ実感が湧かない自分と、嬉しさがジワジワと込み上げてくる気持ち。
わたしは嬉しさから自然と頬が綻び、慈を見つめると「···はい、よろしくお願いします。」と返事をした。
慈はわたしの返事に満面の笑みを浮かべると、握り締める手を更にギュッと繋いで「あー、ヤバい。抱き締めたい。」と天を仰いでいた。
「いや、本当はさ、もっとロマンチックにプロポーズしようか迷ったんだ。けど···、この店が俺達の始まりの場所だし、またここで俺の気持ちを伝えたかったんだ。それに菫の指輪のサイズも分からないし、買うなら菫が気に入ったものを買いたかったから、指輪は一緒に買いに行きたいと思ってさ。」
慈なりに色々考えてくれた上でのプロポーズに、わたしは「うん、指輪は自分で選びたいかも。」と同意をした。
慈は、わたしが同意した事を喜ぶように「やっぱりそうだよな?ずっと身につけてるものだし。」と言った。
「じゃあさ、次の休みの日に結婚指輪買いに行かない?」
「うん!行きたい!」
「それじゃあ、決まりだな!」
わたしはこの瞬間から、次の休みが楽しみで仕方なくなった。
ロマンチックとはいえない、普通のプロポーズだったかもしれないけど、わたしにとっては最高のプロポーズだった。
普通でいい、普通が何より一番幸せなのだと、慈と一緒に過ごしてきた事でわたしは気付けたのだから。