迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
呆然と立ち尽くすフィリーネに対して、ミリーネはシェーズロングソファに座り直して優雅に脚を組む。
「家庭教師が言うには、テネブラエ湖近くの崖に一本のアカマツの木が生えているんだって。近辺の町では行き遅れの娘をその木と結婚させるみたい。結婚相手のいないおまえにぴったりの相手でしょ?」
アカマツと結婚というが、そもそもアカマツは人ではない。ただの木だ。
(アカマツさんは私のような闇の精霊から祝福を受けた者が相手でも良いのでしょうか? そもそも、人ではない相手との結婚がこの国でまかり通るのかも分かりません。意思疎通だってどうやってすれば良いのでしょう)
フィリーネの中で次々と疑問が湧いてくる。
すかさず、マーシャが難色を示す。
「お嬢様、私は近くの町出身ですがそれはただの迷信です。なかなか結婚しない娘に痺れを切らした両親や親族たちが脅し文句に使うだけで、実際に生贄の花嫁というのは……」
「あら、じゃあアカマツの木もフィリーネが初めての相手になるのね。良かったわねお互い初婚で。竜王陛下と人間が結婚できるんだから、木とも問題なく結婚できるはずよ」
ミリーネは笑みを浮かべてこともなげに言った。
マーシャははらはらとした様子で進言する。
「まずは旦那様がお戻りになってからの方がよろしいかと。何分、屋敷の外になりますので」
実の娘を虐げた挙げ句、マツの木と結婚させようとしているのがバレたら世間的にまずい。これは間違いなくアバロンド家の醜聞へと発展するだろう。
マーシャは遠回しにその危険性を示唆した。しかし、ミリーネはその意図に気づいていなかった。
「お父様が外出されている間、屋敷を管理する権限は私にあるわ。だから許可なんて必要ないの。それに、帰りを待っていたら私がノイローゼになるじゃない。結婚はすぐに実行するわ」