迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~


 次に雷が落ちるのは、自分が括りつけられているマツの木かもしれない。そんな確信めいた何かがフィリーネのぼんやりとした頭の中に広がっていく。
(私は、ここで死ぬのでしょうか……?)

 心の中で呟いた途端、雷鳴ではないバキリという激しい音が背後から聞こえた。
 驚いて後ろを振り返れば、それまでしなっていた幹が根元近くで折れかかっている。

 どうやら風とフィリーネの体重を受けて幹が限界に達したみたいだ。
 重力に従ってマツの木が倒れていく。

 当然ながら、括りつけられているフィリーネの身体も下に傾く。
 やがて、根元と繋がっていた最後の部分がバキバキと不気味な音を立てて完全に折れ、崖下へと落ちた。

「きゃあああっ!!」

 バシャン! と大きな音を立ててマツの木は水面に叩き付けられる。老朽化していたのか、叩き付けられた拍子に幹が割れてフィリーネを縛っていた縄が緩んだ。

 なんとか拘束が解けたけれど、ウエディングドレスが水を吸ってどんどん水底へと引き摺り込まれていく。手足を必死に動かしても水面から浮上できない。


(私、ここで終わってしまうのでしょうか……)
 息が続かなくなったフィリーネの意識が遠のいていく。

 最後に見たのは、暗闇の水面の向こう側でひらひらと舞う、二匹の黒色に発光した紫紺蝶だった。

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