迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
第8話 第二の生贄
そこには男性とおぼしき人の姿がある。
「起きたのか? ああ、無事で良かった!!」
声音からして二十代くらいの青年だと思う。
その男性はこちらにやって来ると、フィリーネをぎゅっと強く抱き締めてきた。
突然の抱擁にフィリーネは目を白黒させる。
「あの、わた……」
フィリーネはけほけほと咳き込んだ。
喉が渇ききっていて思うように声が出ない。
青年は慌ててフィリーネから離れる。側の丸テーブルに置かれている水差しの水をコップに注ぎ、差し出してくれた。
コップを受け取ったフィリーネは、一気に水を飲み干す。
マツの木に括りつけられてから何も口にしていなかった。普段と同じ水のはずなのに、十七年間生きてきた中で最も美味しく、甘露だった。
もう一杯飲むか訊かれたが、フィリーネは首を横に振る。
「ありがとうございます。助かりました。えっと……」
彼の名前はなんと言うのだろう。
名前を呼びたいのに分からない。
青年はそんなフィリーネの心情を察し、空になったコップを受け取りながら自己紹介をする。
「俺の名はシドリウス。この屋敷の主人だ」
「シドリウス様、改めて助けてくださりありがとうございます。私はフィリーネ=アバロンドです」
冷酷無比で有名な竜王陛下と同じ名前だが、シドリウスというのは珍しくない名前だ。
現に、アバロンド家で働く使用人にシドリウスという名前の雑用係が一人いた。
目の前にいるシドリウスは、フィリーネの容態をこと細かに尋ねてくる。もしかしたら医者なのかもしれない。