迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
フィリーネは意識を自分自身に向けてみる。現状、身体のどこも悪いところはなかった。
(不思議です。腕についたはずの縄の痕や傷がありません)
縄が食い込んでいた肌は、何度も身体を動かしていたせいでヒリヒリしていた。
湖に落ちた際は、鋭い痛みを感じていたのでてっきり傷になっていると思ったのだが、袖を捲って確認しても何もなかった。
「大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」
フィリーネが深々と頭を下げると、シドリウスは安堵の息を漏らす。
そして次にあるものを差し出してきた。
「これがドレスに絡まっていた。おまえのもので間違いないか?」
フィリーネはシドリウスの手にのっているものに目を凝らす。片方のレンズにヒビが入っているものの、それは間違いなくフィリーネの眼鏡だった。
「私の眼鏡です。拾ってくださってありがとうございま……っ!?」
眼鏡を受け取って耳にかけた瞬間、フィリーネは声を失った。
目の前にあったのは、恐ろしいほど美しい青年の顔だった。
さらりとした艶のある黒髪は襟足まで伸びていて、少し日焼けした肌は健康そうな色をしている。アーモンドの形をしたアイスブルーの瞳には長い睫毛の影が落ち、鼻筋は通っていて唇は薄い。
何よりも、すべてのパーツが絶妙な位置に配されているため、巨匠が手がけた精巧な芸術品のようだった。
上質なシルクのシャツに、紺色のズボン。ラフな格好であるのにどこまでもその姿は優美だ。