迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
恐らくどこかの貴族だろう。そして、眼鏡をかけるまで分からなかったが、シドリウスの瞳が潤みを帯びている。
今にも泣きそうになっているので、もしかしたら自分の容態はよほど悪かったのかもしれない。
シドリウスは目元を手で覆い、ため息を吐いた。
「はあ、数百年も待ちわびた相手が目の前にいるなんて未だに信じられない。こんな機会は絶対に巡ってこないと思っていたんだが。奇跡というのはあるのだな。間違いない、俺の運命の番だ」
「え?」
彼の微かな呟きは、フィリーネの耳には届いていなかった。
それよりも重要なのは、助けてもらったお礼をどうするかである。
お礼をしようにもお金は持っていない。それなら労働という形で返しても良いのだが、部屋を見る限り掃除は行き届いているし整理整頓もされている。
何をすれば最良なのかフィリーネが逡巡していると、第三者の声がした。
「――生贄の花嫁が目覚めたようだね」
驚いたフィリーネは勢いよく顔を入り口に向ける。そこにいたのはフィリーネと同年代くらいの少年だった。
ぱりっとした白のシャツに、黒のズボン、カーネリアンのループタイをしている。
ふわふわの髪は縹色。蜂蜜色の目はやや切れ長だが、微笑みを浮かべているおかげでキツさが取れている。年齢の割には大人びていた。
フィリーネが自己紹介とともに挨拶をすると、丁寧にお辞儀をしてくれる。
「僕はシドリウス様の秘書、ヒュドー。よろしくね」
フィリーネは自分と同年代の少年が秘書を勤めていると知って驚いた。
ハビエルの秘書をしているのは上級使用人の執事だ。その彼と同じ業務を行なっているのなら、ヒュドーはよほど優秀な人材なのだろう。
感心していると、ヒュドーが労る様な顔をする。