迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~


「はああ、あんなに美味しいご飯を食べたのは生まれて初めてでした」
 朝食が済んだフィリーネは未だに感動の余韻に浸っていた。唯一悔やまれるのは、デザートの果物に辿り着けなかったことだ。これに関してはフィリーネの胃袋が自分の予想よりも小さかったのがいけない。

「次からはデザートも念頭に置いて食事をしないといけませんね」
 フィリーネは自分のお腹をぽんぽんと叩きながら廊下を歩く。
「――さて。お腹も満たされましたし、お屋敷の間取りを把握していきましょう」

 食事の後、フィリーネは屋敷を見て回って良い許可をシドリウスからもらった。
 これは一種の職業病で、お屋敷仕事を長年勤めてきた身としてはどこに何があるのかを頭に入れておきたい。

 手始めに一階の部屋から散策していく。
 この屋敷の食堂と厨房は繋がっていて、食堂から廊下を出るとその向かいには、トイレやお風呂といった水廻りがまとまって設置されていた。

 続いて玄関へ向かって歩いていくと、シドリウスの書斎や図書室、客を出迎えるための応接室などがあった。
 応接室は絵画や陶器などが飾られていて、全体的に華やかな空間となっている。
 フィリーネはそれらの装飾品を真剣に眺める。もちろん、作家の想いを汲み取ろうとしたわけではない。気になるのはそれらについている汚れや埃だ。

 フィリーネはどこぞの姑の如く、陶器をスーッと指で撫でて汚れがないか確認する。
「目立った汚れはありません。カロンさんは凄いです!」
 シドリウスの屋敷は規模の割に超がつく少数精鋭。というより、侍女はカロンだけなのでその負担は相当なものだと推測できる。

「細かいところまで掃除が行き届いているとなると、朝はどれほど早い時間に起きているのでしょう?」
 アバロンド家の使用人たちは分担が事細かに決まっていて、一人一人無理のないよう仕事が割り振られていた。
 したがって、一人で仕事をこなすというのはまったく想像がつかないし、カロンが睡眠時間を確保できているかすら怪しくて心配になる。

「私がお掃除を肩代わりすれば、カロンさんの負担も減って楽になるはず……」
 フィリーネは「よしっ」と言ってから踵を返し、早速行動に移った。

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