迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~


 ヒュドーの調査報告はいつだって正確だ。時間は要しているが結果が出るまで待つ価値はある。すなわち、アバロンド家の真っ黒な証拠が出揃った暁には、フィリーネのあずかり知らぬところで断罪する予定だ。

(……首を洗って待っていろ)
 シドリウスから殺気が漏れ出ているのに気づいたヒュドーは小声で「ひぇっ」と悲鳴を上げる。

「シドリウス様、フィリーネ様が大切なのは分かりますが落ち着いてくださいね?」
 ヒュドーがシドリウスを宥めていると、開いている窓からピアノの調べが風に乗って流れてくる。ゆったりとした三拍子は舞踏会のダンスに使われる定番曲だった。
 眉間に寄っている皺を伸ばすようにシドリウスが指で押さえる。


「……今日もカロンが熱心に授業をしているようだな」
「ええ。姉はエリンジャー公爵家の令嬢なのに家庭教師を夢見ていましたからね。教えられて嬉しいんだと思います。というか、趣味も服作りなので大分変わってますよね」

 ヒュドーの表情がたちまち苦いものに変わった。
 実を言うと、カロンとヒュドーの二人は姉弟だった。

 カロンの本来の職はシドリウス付きの侍女で、さらに言うとヒュドー同様に風の精霊師だ。カロン本人は精霊師に端から興味がないようで、滅多に魔法は使わない。
 因みにカロンが契約している風の精霊はツバメの姿をしている。

 カロンの自由奔放な性格を思い出したヒュドーが遠い目をしていたが、やがて真面目な顔つきになった。

「姉は、シドリウス様がフィリーネ様を世間にお披露目するのを切に願っています。どこかのタイミングで舞踏会を開くのはどうでしょうか?」
 そんな腹づもりのなかったシドリウスは顔を顰める。

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