破断直後のEt cetera
「君、未怜との婚約を解消したんじゃなかったの? まさか婚約破棄しておきながら付き合ってるなんて言わないよね?」
「オージスの新規事業参入を機に、もう政略的な関係に囚われる必要はないと判断し、双方の親が取り決めた婚約は解消しました。でも俺は、未怜を一人の女性として、」
「関係ないね。」
お兄ちゃんが、声を被せて、詩太さんを鋭く睨みつける。
慌てて止めようとするも、お兄ちゃんに遮られた。
「君の言葉一つで、そんな簡単に話が進められるほど単純な世界じゃないんだよ。十二村製薬の御曹司なら分かって当然だ。」
「お兄ちゃん!」
「未怜は大事なオージスの令嬢なんだよ。君が婚約を破棄したことで、大路家がどれだけの代償を払うか分かってる? オージスは十二村製薬に見放されたって風評が立つんだよ!」
「ですが、企業同士の繋がりを持つことで、十二村製薬がオージスの勢力を止めてしまう可能性だってある!」
「違うなあ。君は何も分かっていない。」
お兄ちゃんの白熱ように、どう止めるべきかが分からない。
ここまで怒っているお兄ちゃんを見るのは初めてなのだ。
元々婚約解消の件は、うちの両親だって私に勧めていたこと。オージスは十二村製薬の手を借りなくとも、企業成長への新たな道を見つけてしまったのだ。
詩太さん一人のせいじゃない。
「未怜、さっさと十二村製薬は辞職しなさい。」
「な、何言って!」
「未怜は株式会社オージスの人間だ。これからはボクもオージスの跡取りとしてオージスに従事する。ボクの元で働きなさい。」
「そんなこといきなり言われたって無理に決まってんでしょ?!」
まさか、お兄ちゃんの独断で私の進路を決められるなんて。
自分の仕事にまで干渉されて、さすがに腹が立つ。握った拳に力が籠る。
「それなら聞くけど、十二村製薬は未怜にとって居心地がいいって言える?」
「え?」
「婚約者ってだけでも色々噂されただろうに。婚約を破棄されて、さぞかし周りに波風立てず、上手くやっているんだろうねえ?」
「それは……」
グローバル部では上手くやっている、と思う。忙しすぎて、他の社員さんと交流を持つ時間はないけれど。
少なくとも、楢崎課長や天王寺さんは私をいつも気遣ってくれている。
「皆、いい人たちだよ。」
「皆? 本当にそう言い切れる?」
「な、なんで……そんなに、問い詰めて……」
自分の言葉に自信が持てず、次第に視線が俯いていく。
はっきり言って、天王寺さん以外の女性社員とプライベートな話をしたことがないのだ。
それどころか、高坂さんや、他の秘書課の女性に好かれているとはとても思えない。
お兄ちゃんの言っていることは、図星なのかもしれない。