破断直後のEt cetera

「3月末で自主退社すればいい。4月からは、ボクの秘書として働いてもらおうと思っているんだ。」

「なんで、そんな勝手なこと……!」

「勝手なこと? 未怜の前にいる男の方がずっと自分勝手だろう。」

 
 お兄ちゃんが、詩太さんの方も見ずに言った。

 詩太さんは、動揺している様子はないものの、何も言い返さないでいる。

 
「とにかく、今日は一緒に帰るよ、未怜。」

「ちょっと! 私、一人で帰れるもん!」

「照れるな。」

「照れてないわバカ兄貴! 詩太さんと一緒に帰るから!」


 お兄ちゃんに引かれた腕を振り払う。

 すると、詩太さんが私の肩に手を置いて言った。


「未怜、今日はお兄さんと一緒に帰った方がいい。」

「でも、」

「せっかくアメリカから帰ってきたんだ。兄妹でじっくり話した方がいいだろう。」


 詩太さんが気を利かせて言ってくれるも、お兄ちゃんにはさらに拍車がかかる。

「十二村君、ボクは未怜と付き合うのは許さないよ。ボクの大事な妹を振り回すのはいい加減にしろ。」
 

 低い声で牽制するお兄ちゃんが、私のバッグを取り上げてタクシーの方へと歩いていく。

 詩太さんとのせっかくの時間が台無しにされてしまった。

 それどころか、お兄ちゃんは私たち2人に思案の種を植え付けたのだ。

 その日は、詩太さんに一言謝って、お兄ちゃんと一緒に帰ることにした。



 タクシーの中でお兄ちゃんは無言だった。

 車内には広告のプロモーションが流れており、それだけ響いているのが余計に不穏な空気を作り上げている。

 いつもだったら帰国するなり、聞いてもいないお土産話を沢山してくるはずなのに。 

 ずっと窓の外を見ていて、家を示す高い植木が見えた時、初めて言葉を口にした。
 
「未怜の気持ちを弄んで、何がしたいんだアイツ……。」


 その言葉が、チクリと胸を突く。

 いつだったか、居酒屋で吉香が詩太さんに怒ってくれたこととリンクしたからだ。

 これだけ好きになってしまった私も私だけど、十二村製薬に就職した時でも、詩太さんは私に話しかけることはなかった。

 100%否定はできない兄の言葉に、私はただ俯くことしか出来なかった。





< 103 / 124 >

この作品をシェア

pagetop