破断直後のEt cetera

 翌朝、働かない頭を栄養剤で奮い立たせて出勤する。今の私に落ち込んでいる暇はないのだ。

 今日は9時から釜山の医薬品メーカーとオンラインミーティングだ。

 共同開発薬品の、具体的な発売時期と値段について話し合うことになっている。

 長くなりそうなため、雑念は掻き消して挑まなければならない。気合いを入れるため、頬を叩いた。 

 楢崎課長と、3階のオンライン用ミーティングルームに移動する。
 
 音量を確認しようとヘッドセットを頭につける。

 すると真横にいるはずの課長の声が、ヘッドフォンから聞こえた。


『あれ、なんか元気ないなあ。それならここで一曲、僕の美声で僕の十八番でも聞いてもらいましょう。』

 
 ミーティング直前でこの余裕さ。さすが楢崎課長だ。
 
 楢崎課長の定番曲? ちょっと興味ある。

 一体どんな曲が聞けるのかと、課長を見ながらヘッドフォンに耳を傾ける。

 すると、課長の美声で鼻歌が聞こえ始めた。

 伴奏から始まるも、なぜか全く歌が始まらず。私は呆気に取られてしまった。


『今のは、『Wo`tis』のナントカって曲でした〜。』


 「ああ」と、私が思い出したように声を上げれば、課長に笑顔を向けられた。

 どう考えても今のはうろ覚えの鼻歌。彼の十八番からは程遠そうだ。

『東雲さんが言ってたんだよ。大路さんは『Wo`tis』が好きだって。シウだっけ?』

『い、今その話はやめてください!』

『誰かさんに似てるってだけでファンになれるなんて凄いよね。』

『凄くないです! それより楢崎課長、鼻歌上手いですね!』

『今のは褒めるとこじゃなくて笑うとこだったんだけどな。』


 課長には何も隠しておけないらしい。

 私が落ち込んでいることも、私が『Wo`tis』のファンになった理由も。 

 楢崎課長の元気をもらったお陰で、ミーティングに集中して取り組むことが出来た。

 滞りなく販売計画の話を詰めることが出来て、ミーティングが終了したのはちょうどお昼の12時頃だった。

 ヘッドセットを片付けて立ち上がり、楢崎課長に頭を下げる。






< 104 / 124 >

この作品をシェア

pagetop