破断直後のEt cetera
「あの、ありがとうございました!」
「え? 何? 僕、なんかした?」
「ミーティングが始まる前に、私の気分を上げてくれましたよね?」
「ああ。あれはむしろスベってたっていうか。」
少し照れたようにはにかむ楢崎課長が、後ろの首に手をかける。
「なんか朝から表情が固かったから。もしかして、何かあったのかなあって。」
「やっぱり、課長は凄いですよね。ちゃんと社員のことを見てくれている。」
この人は自分が楽しむことだけじゃなく、社員も楽しませようとしてくれているのだろう。
グローバル部が花形だと言われている理由がよく分かる。
「大路さん、僕は社員全員を見ているわけじゃないよ。大路さんに、つい目がいっちゃうってだけで……」
「え?」
口は笑いながらも、目を伏せる楢崎課長の表情が翳る。
それを見て、自分が課長の告白を断ったことに、今さら罪悪感を覚えた。
詩太さんに告白されたことで舞い上がっていた自分が恥ずかしい。
きっと、本当に楢崎課長は私に想いを寄せてくれていたのだろう。
そうでなきゃ、こんなに私のことが見透かされるはずはないだろうから。
「あの。あの時は、本当に……」
楢崎課長に謝罪かお礼、どちらを伝えるべきか。
お礼を伝えようとしたところで、ミーティングルームのドアが開く。
「おい。ここ、次はうちが使うんだが。」
「あっ、と。十二村。」
「“部長”をつけろ“部長”を。」
詩太さんだ。
なかなか私たちが出ていかないから、痺れを切らし、入ってきたのだろう。
(まずい。今の会話、聞かれてたかな。)
妙な気まずさに押しつぶされないよう、慌ててファイルをまとめて椅子をしまう。
課長が先に出て行き、私も追いかけようとすれば、詩太さんに引き留められる。
「大路、」
小声で話しかけられて、きっと誰かに聞かれたくない話なのだろうと詩太さんに顔を近づける。
「はい。」
「しばらく会うのをやめよう。」
「え?」
「昨日のお兄さんが言ったこと、色々考えさせて欲しい。」
「な、」
なんで? と続けようとするも、ミーティングルームには他の営業本部の社員たちが入ってきた。
詩太さんが一番奥の席に歩いていく。
私はその場に取り残され、理由を聞こうにも、聞けない状態となってしまった。