破断直後のEt cetera
未怜が新入社員として十二村製薬に初出勤した日、こっそりと総務部まで見に行ったのを覚えている。
新規プレゼンツールの起案書を持っていくのを建前に、初々しい彼女を遠くから眺めた。
肩よりも少し長い艶のある髪を一つに結び、教育者の話に耳を傾け、熱心にメモを取っている。
清楚で真摯に学んでいるというのに、周りは『あれが十二村の婚約者だ』という目で見ているのが分かる。
新卒の社員が、最初から総務部に配属された例はない。
俺の婚約者というだけで、優遇されることに嫌気が差す。
周りの社員から、当然のように彼女は一線を引かれ、中には冷たい視線を向ける者もいた。
そんな状態で俺が声を掛けようもんなら、さらに未怜がひんしゅくを買う可能性は高い。
そう思い、声がかけられなかった。
家が取り決めた、会社の経営を維持するためだけの婚約。
彼女が幸せになれるとは思えなかった。
彼女が秘書課に配属されてからは、高坂や他の秘書からの懸念となることを恐れた。
俺はその頃、本気で未怜は『きっか』に恋してるものだと思っていたから、余計に迷惑をかけてはいけないと思っていたのだ。
きっと未怜にとってこの婚約は、不本意なもの。
そう勝手に決めつけていた俺は、彼女を贔屓しないよう、極力会話を謹んだ。
初めから声をかけ、会話をしていれば、彼女の本心を知ることが出来、もっと上手くやれていただろうに。
俺はどこまでも不器用で自分勝手だ。