破断直後のEt cetera
研究会からの帰り道、車を走らせていれば、玄也さんの店の近くを通りかかった。
小路の外に出ているのぼりには、いつしか俺が食べ損ねた、“アサリの酒蒸し”の文字が書かれている。
そういえばここのところ、店に足を運んでいない。
未怜がいる可能性も考えたが、もう夜の21時になろうとしている。しかも今日は週のど真ん中。
残業続きで、居酒屋で酔っぱらっているほどの余裕はないだろう。
なんとなく飲みたい気分もあり、玄也さんの店に立ち寄ることにした。
「いらっしゃい!」
「いらっしゃいませ。」
店内は、週の真ん中とあってか、テーブル席に3組ほどしかいない。
いつものようにカウンター席に座れば、フリルのエプロンをつけ、腰を丸めた女性が厨房にいる。
見慣れない店員に、少々戸惑いながらも、日本酒とアサリの酒蒸しを注文した。
「あら。まあまあ。あなたは、どこかで見たことがあるような。」
目を丸くして俺を見つめてくる女性店員。年齢は、すでに還暦を越えていそうだ。
玄也さんが、お手拭きを渡してくれる。
「おふくろ、その人が話してた十二村製薬の、」
「あらあら。あなたが十二村詩太さん?」
玄也さんが、女性店員を『おふくろ』と呼ぶのを聞いて、もしやと思い2人を見比べる。
「玄也さん、もしかして、お母さん?」
「あはは、そうなんすよ〜。恥ずかしながら、今日は店の掃除をしに来てもらいましてね。」
「いつまで経っても掃除が苦手な息子で。ついでにこうして、お店の手伝いもさせられてるってわけなんです。」
照れを隠すように、すぐに料理に取りかかる玄也さん。ザルからフライパンにアサリを移し入れていく。
なるほど、確かに太めの眉毛がそっくりだなと思っていれば、玄也さんのお母さんが話しかけてきた。
「こんばんは。初めまして。大路様のおうちでハウスキーパーをさせてもらっています、小松と申します。」
「ああ。」
前ここに来た時、未怜がハウスキーパーの話をしていたことを思い出した。
玄也さんのおふくろさんが、大路家のハウスキーパーとして働いているのだと。