破断直後のEt cetera
「何度か大路様には、詩太さんのお写真を見せてもらっていましてね。大路様は十二村様との縁をとても大事にしていらっしゃいます。」
柔らかく微笑む小松さんが、俺の前におちょこを出し、とっくりから日本酒を注いでくれる。
父親の話を持ち出されて、未怜との婚約を解消したことを問い詰められるのではないかと身構えた。
「未怜ちゃんからは、詩太さんのことを色々と伺っておりますよ。バレンタインも一緒に過ごされたとか。」
「ぶふっ! ……失礼。」
カウンター席で、バレンタインのことを言われて、つい日本酒を吹きそうになる。
恥ずかしすぎて、お手拭きで口を抑え、やるせない感情を押し戻した。
「かれこれ、12年年越しのバレンタインってところでしょうかねえ。12年もの間作り続けたチョコが、ようやく渡せたんですから。」
小松さんの言葉に、おちょこを口に運ぶ手が止まる。
玄也さんがフライパンに蓋を閉じる姿を背景に、小松さんが漆器のお皿を用意する。
「12年作り続けた? それは、友達にということですか?」
「いいえ。もちろんあなたに、ですよ。未怜ちゃんの心には、いつだって詩太さんがいましたから。」
12年ってつまり、俺が高校生で、未怜が中学生の頃?
初めての顔合わせで、出会ったばかりの頃だ。
まさか出会った時からすでに未怜は、俺のことを想ってくれていたということか?
「でも俺、そんな前から貰った記憶なんてないですよ。この間のバレンタインが初めてで、」
「ええ。未怜ちゃんは、何年も何年も、ラッピングまでして用意してるというのに、一度もあなたに渡せたことがないんです。」
「なんで……」
「あなたの大学の近くや、ご実家まで行ったこともあるようですけど、いつも直前で勇気が出なかったみたいです。まあ、4歳年下だし。未怜ちゃんは女子校育ちで男性に免疫がないですから。勇気が出ないのも当然でしょう。」
12年もの間、俺にバレンタインチョコを作ってくれていた?
でも未怜には、『きっか』という口うるさい友達もいるし、推しの韓国アイドルだっている。
俺のことばかりにかまけていたとは、とても思えない。