破断直後のEt cetera
「まさか、俺みたいな人間に12年間も作っていたなんて。信じられません。」
「そうでしょうね。『そんなはずない』と思いたくなるのも、無理はないと思いますよ。なんせ12年ですから。」
「だって、俺は彼女に何もしていない。そこまで好きになられる要素なんて、どこにも……」
「ふふふ。」
小松さんが、目元にシワを作り、温かな笑みを溢す。
ここは俺を咎めてもいい場面だというのに。この人は、未怜信者の『きっか』とは違うらしい。
「“好き”に理由を求めても意味がありませんよ。未怜ちゃんの12年もの想いは、どんなに弁の立つ理由にも勝ってしまうものですから。」
「でも本当に俺は、未怜をずっと放ったらかしにしてきて、」
俺の言葉を遮るように、小松さんが、壁に貼られたポスターを指さす。
そのポスターには、未怜が推しだという韓国アイドルが、ビール缶を手にPRをしている。
「あの、シウ君って韓国アイドル。あなたにそっくりよねえ。」
「え?」
「まあ、自分じゃ気付いてなかった?」
爽やかなアイドルスマイルと、俺より若々しい印象を持つ韓国アイドル。
尖った雰囲気がどこにも感じられず、自分とは似ても似つかないように思える。
「未怜ちゃんがシウ君のファンになったのだって、詩太さんに似ているからなんですよ。」
「は、」
「すごいと思わない? 推しのアイドルに似ている男性を好きになることはあるだろうけれど、好きな人に似ているからアイドルを推せるなんて。」
嬉しそうに未怜のことを語る小松さんは、とても未怜を愛しく思っているように感じた。
この人は、もうずっと前から未怜の傍で未怜を見てきているのだろう。
「中学では苦手だった英語だって、全く喋れない韓国語だって、原点はすべてあなたにあるのよ、詩太さん。」
「俺、ですか。」
「ええ。あの子のザッハトルテだって、初めて作った時は酷いもんだったんだから。」
「そうなんですか?」
「最初はスポンジがカチカチに固くなっちゃってねえ。メレンゲを一生懸命泡立てることに必死で、何度も挑戦していたっけ。」
つい先月俺が食べたザッハトルテは、生地がしっとりしていて、本当に売り物であるかのように美味かった。
あそこまで完成させるのに、それだけ失敗をかさねたということか。