破断直後のEt cetera

 ある日、私が十二村部長との婚約解消を機にグローバル部に異動。

 総務部に舞い戻るなり、他の一般事務職に異動するならまだしも、海外事業を相手にするグローバル部は、よほどの功績がなければ異動は出来ないと云われている。

 端から見れば、裏で何かしらの作用が働いているとしか思えないだろう。
 
 しかもグローバル部には、社内で人気の楢崎課長がいるのだ。

 この秘書2人が妬みたくなるのも頷ける。 


 この場をどう乗り切ろうかと考えていれば、高坂さんがヒールをカツリと鳴らした。


「それはないわよ。私、去年よく楢崎課長とご飯食べにいっていたもの。大路さんのことなんて1ミリも話題に出なかったわ。」

「えっ、そうなんですか?」

「それに、あなたたちも知ってるでしょう。大路さんは定時で帰っていたのよ? 忙しすぎる楢崎課長の目にも入らないわよ。」

「そ、それもそうですよね……。」

「あなたたち、その噂は楢崎課長も悪くいうことになるのよ? 課長のためを思うならやめなさい。」

「す、すみませんでした……。」


 腕を組む高坂さんが、ゆるい髪を掻き上げてエレベーターを出ていく。

 2人の秘書は、気まずそうに俯いてしまった。



 今のは、高坂さんが私を助けてくれたという解釈でいいのだろうか?

 急いで高坂さんの後を追い、呼び止めた。


「高坂さん! あの、ありがとうございました!」


 私が後ろで頭を下げれば、高坂さんが振り返って眉をひそめる。


「別に、大路さんを助けたわけじゃないわよ。楢崎課長のために、つい口を挟んじゃっただけ。」

「それでも、嬉しかったです。上手く言えないんですけど、とにかく嬉しかったです。」


 これでは語彙力がないと言われそう。

 でも本当のことなのだ。今まで高坂さんには嫌われていると思っていたから、まさかあの場でフォローをしてもらえるとは思わなかった。

  
「大路さん、悪いけど私、本当に十二村部長のこと好きだったのよ。」

「えっ」

「でも部長には婚約者がいるから、諦めるしかなかった。他の男性と無理やり恋愛し直そうと思ったけど、なかなか出来ないのよ。」


 オフィスの建物を前に、高坂さんが上層階を見つめる。

 鼓動が止まりそうになった。

 私を煙たく思うのは、無理もない。 
  
 部長と高坂さんの仕事上での信頼関係は、きっと誰よりも厚いものであるはずだ。






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