破断直後のEt cetera

「実は、無理いって大路貴文(たかふみ)さんに、今日この場に来ることを承諾いただきました。」

「はあ? 何のために?」


 遠くで談笑していたお父さんが、こっちに気付いて手を振っている。

 詩太さんがお父さんに向かって一礼すると、お父さんは再び他の役員と挨拶を交わしていた。

 私もお兄ちゃんも目を丸くする。

 どうやら本当にお父さんこと、大路貴文の了承を得ているらしい。

  
「今日、どうしてもあなたに伝えたことがあってここに来ました。」

「ボクに?」

「はい。」


 詩太さんは堂々とした佇まいで、スタイルのいいお兄ちゃんと並んでいるせいか、女性役員がこちらの様子をじっと見つめている。

 オージスのアウェーでしかないこの空間で、さすが詩太さんだなと思う。


「それで、今さらボクに何を伝えに来たの? どれだけ未怜を引き留めようとも、もう未怜はこの先ボクの秘書として働いてもらうことが決まってるんだよ。」

「お兄ちゃん! いい加減に、」

「未怜は黙ってなさい。今ボクは十二村君と話している。」


 お兄ちゃんに一喝され、ピリリとした緊張感に呑まれる。

 こんなに人を睨んでいる兄を、初めて見た気がする。

 
「俺は、ずっと十二村製薬の将来を背負って立つ人間として生きてきました。生まれた時から、それが当たり前であるかのように。」

「それが何? ボクだって同じだよ。生まれた時から、オージスの経営者になるためだけに生きてきた。」

「ええ。それは決して、容易な道のりではなかったと思います。」


 お兄ちゃんが眉をひそめる。

 詩太さんの示唆するものが、まるで読めないらしい。


「ですが、未怜には元より俺達のようなレールは敷かれていません。それなのに、独学で語学を学び、数々の語学検定も取得しています。自ら意欲的に努力するって、凄いことだと思いませんか?」

「……そんなこと、君に言われなくてもボクが一番分かっている。」

「はい。俺は、そんなひたむきな、誰よりも一生懸命な未怜を愛しています。」 
 
「初めて会った時、ろくに挨拶すらしなかった君に、未怜を愛する資格なんてないよ!」


 お兄ちゃんの叱責が飛ぶも、詩太さんが目をつむり、深く深呼吸をする。

 何か、覚悟を決めたかのように目を見開いた。






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