破断直後のEt cetera
「今日は何飲む? 生?」
「日本酒熱燗で! あとアサリの酒蒸しと山芋の鉄板焼き!」
「いきなり日本酒かい。はは、どうした? そういや一人で来るとか珍しいなあ。」
玄也さんは気兼ねなくなんでも話せる店主さん。小松さんもそうだけど、自分をさらけ出せる安心感がある。お父さんやお母さんにも話せないことまで相談できる存在だ。
例えば、そう。私が出会った頃から婚約者に恋焦がれていることとか。
ようやく十二村製薬で、詩太さんの秘書として彼の間近で働くことができるようになったというのに、未だに会話がないこととか――――
「最悪なんですよあの元婚約者! 私が話しかけても『ああ。』しか言わなかった癖に、なあにが『これだから箱入りは。使えない。』だ!」
すでに熱燗の日本酒、四杯目に突入している。
玄也さんが色々な種類の日本酒を教えてくれたのだ。私の愚痴が止まらないのは全て日本酒の種類が豊富なのと、勧め上手な玄也さんのせいだ。
「いやもうびっくりだな! まさか婚約破棄だなんて、リアルの世界にも存在するんだな〜。」
「いいですか? 婚約破棄したのは私ですから! アイツからじゃない、わ・た・しから破棄したんですからね?!」
「分かった分かった! 何度も聞いたし、昨日だって……って、あれ? そういや昨日もそんな話聞いたような……?」
「昨日?」
何を言ってるの?と火照った顔で壁掛けの時計を見ればすでに21時を過ぎている。
私がここに来たの、何時だっけ?と思い返していれば、居酒屋の扉が勢いよく開いた。
「いらっしゃい!」
「おい。日本酒とアサリの酒蒸し。」
「いきなり入ってきて日本酒ですかい!っと。すんませんお客さん、今日はもうアサリの酒蒸し売り切れですわ。」
ええ! お店に入った瞬間に『おい』って何様? しかもそんな態度の悪い客と私同じもの頼んでるし。
“アサリの酒蒸しが売り切れ”でざまあみろと心の中で悪態を吐く。
そして私の隣の席を一つ開けて、二つ先に座ったその態度のデカい客。こんなに近くに座られたら、玄也さんに愚痴を言えなくなる。煩わしく思い、眉間にシワを寄せて目を向ける。
「なら山芋の鉄板焼。あと酒は熱燗で。」
「はい、少々お待ちくださいよ〜!」
すぐに目を反らすつもりが、反らせなくなった。
だってそこには、もう二度と会いたくなかった人物がいるのだから――――。