破断直後のEt cetera
「……な、え。もろ被り?」
思わずつぶやいてしまった。
自分と全く同じものを頼んでいることにも驚くし、こんな庶民的な居酒屋にいることにも驚く。
会社の飲み会ではいつも席が離れているため、生ビールを飲んでいるところしか見たことがない。日本酒どころか、アサリや山芋が好きだということを今初めて知った。
「は……。大路、未怜?」
「う、詩……とっ、十二村部長?!」
「おい、お前、本物か?! 本物の大路未怜か?!」
「そ、そっちこそ! 本物の十二村部長ですかっ?!」
いつものスーツ姿の部長だ。ジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけて、紋章柄のネクタイをシャツの隙間に入れている。
え――待って待って。心の準備が――――
「なぜ大路がここにいる?」
「ぶ、部長こそ、なんでこんなところにいるんですか?! ここ、私の大事な憩いの場!」
「お前じゃない、俺のだ。ここは俺の大事な憩いの場だ。」
「私、もうこのお店昔っから来てますもん! 学生の時から来てますもん!」
「俺はここに週1で通ってる。お前に会ったことはないから、お前は言うほどこの店に来ていないはずだ。」
「ぐっ……。」
昨日といい今日といい、やっぱり嫌な性格に変わりはない。
よりによって、こんな最悪な偶然ある? 私と部長がそれぞれ玄也さんの顔を見て、『アイツキライ』と心の中で訴える。
でも色んなお客さんを相手にしている玄也さんは、すぐに察しがついたようだ。
「え、え? 2人、知り合いなの??」
「い、いえ、知り合いというほどでは」
「何その嫌そうな顔。あ! ってことはもしかして? まさかの……なんて?」
途端に玄也さんの口角が厭らしく釣り上がり、ネタを得た魚のように手を大きく叩いた。
「婚約者?!」
「元ですよ元! 元婚約者です!」
玄也さんの言葉に被せるように声を上げてしまった。
私の言葉に、はあ〜。と顔をしかめる部長が小さく舌打ちをする。私はそれを聞き逃さなかった。
(し、信じられない! 仮にも元婚約者に舌打ちって!)
あまりの態度の悪さに嫌気が差し、私は鞄から財布を取り出した。まさか昨日の今日で、こんな最悪な鉢合わせをするなんて思いもしなかった。
「玄也さんごちそうさま! ちょっと、もうここには2度と来ないかもしれませんので!」
「ああっと。あ、ありがとな未怜ちゃん! お袋のことよろしく!」
カウンターに『お釣りはいりません!』とお金を置いて、軽く部長に頭を下げて店を出る。