破断直後のEt cetera


 お腹を力強く腕で支えられて、いとも簡単に転倒を防がれた。

 後ろから耳元で囁かれた声に、ドクリと鼓動が大きく跳ねる。


「細。俺の手で簡単に折れそうだな。」

「ちょ、な、怖いこと言わないで下さいよ!」


 振り返ればそこには、十二村部長の顔があった。

頬が触れそうなほどの距離に、つい彼の体温に身を預けてしまいそうなほどの至近距離。

 まさか抱きとめられるとは思わず、支えられた腕の逞しさに嬉しさが募る。

 咄嗟に部長の胸元を軽く押し、距離を取る。これじゃあ私の心音が伝わってしまいそうだ。自分の長年の想いがバレるのは阻止したい。

 
「……」  

「あの、あ、ありがとうございました。本当に、その、」

 
 なぜこんなところまで来たのだろう? まだ部長は居酒屋に入ったばかりで、熱燗を楽しむ前だったはずだ。

 もしかして、とほんの僅かな期待が、私の脳裏で蛍火のように灯る。

 
「マフラー。」

「……はい?」

「マフラー、忘れてる。」

 
 首にマフラーを掛けられる。   

 大きめのマフラーがふわりと鼻を掠め、自分の僅かな期待が急激に恥ずかしくなった。


「す、すすすすみません! わざわざありがとうございます!」

「なんでそんなおっちょこちょいなんだ。この俺を走らせる奴なんてお前くらいだぞ。」

「へ?」 


 まさか走ってきたの? と部長の姿を見れば、ジャケットも羽織らずに、いつもはオールバックの髪が崩れて前髪が垂れている。

 詩太さんはサラサラな髪だから、オールバックにはしにくいはず。でも初めて会った日以外は、なぜかいつもオールバックなのだ。


「なんだ?」

「い、いえ。髪の毛が、やっぱりサラサラだなと思って。」

「ああ、この猫っ毛が嫌いでな。いつも上げているが、すぐに髪が落ちてくる。」


 部長がブルーブラックの髪を掻き上げる。その仕草に、つい見惚れそうになり慌てて目を瞬かせた。





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