破断直後のEt cetera
「あの。じゃあ私、帰りますので。本当にありがとうございました。」
深く頭を下げた。自分はあくまで彼の部下であることを肝に銘じ、御礼の言葉を伝えた。
前を見て、口角を意識し、なるべく笑顔で最後の言葉を振り絞る。
「さようなら。」
たった一言だけのその言葉が、強く自分の胸を締め付けた。
夜の繁華街には、あちこちから呼び込むの声と賑やかな集団の笑い声が響いている。私には眩しすぎる世界だ。
振り返って駅までの道を見据える。歩いていく私の道には、裏通りの静けさと灯りを遮る帷が下りていた。
なんて暗いのだろう。
「おい大路? 大路?!」
部長の声が、遠くに聞こえる。
急に目の前が真っ白になって、胃からこみ上げるものを感じた。その場で脱力感に襲われる。
いつだってアルコールで誤魔化してきたこの身体も心も、もっと強いものだと思っていた。
情けなさすぎて笑える。いつも傍にいてくれる吉香に会いたい。
吉香に今すぐ笑い飛ばしてもらいたい――――
「……っか、きっ、か……」
虚ろな目を開けば、私を不安そうに見つめる顔がある。
綺麗な瞳は顕在で、困ったように眉の下がる表情は、初めて出会った時に見たあどけなさを彷彿とさせる。
「大路? 大丈夫か?」
「きっか……?」
「“きっか”じゃなくて悪かったな。」
目の前にある顔に自分の顔が引きつる。
「どぅわッっ――ぶ、部長?!」
「だったらなんだ? “きっか”は『きっか』と呼ぶ癖に俺は『部長』か。」
「はい?!」
ここはどこかと周りを見渡す。ピンク色のカーテンに薄ピンクのシーツ。天井の電気は薄暗い暖色で、真横の壁は鏡張りになっている。
“鏡張り”。初めて来た場所とはいえ、文芸部で何度か読んだことのある描写に察しがついた。