破断直後のEt cetera
「う、うそ。な、なんでこんなところに?!」
「お前が道端でぶっ倒れたんだろうが。すぐに運べる場所がここしかなかったんだよ。」
「そ、そうでしたか。それは大変ご迷惑をおかけしまして、」
「本当だ。こんな場所に泥酔する女を運んだ俺の身にもなってみろ。」
う〜ん、想像すると少しニヤついてしまう。
「何がおかしい?」
「いてっ」
部長におでこを弾かれて、必死に笑わない顔を作った。
椅子には、ビジネスバッグとジャケットが置かれていて、聞けばわざわざタクシーに私を乗せて、一旦玄也さんの居酒屋まで取りに行ったらしい。
テーブルには、コンビニで買ったのかプラスチックの空き容器と割り箸が置かれている。私のせいで、居酒屋で夕飯を食べられなかったのだろう。
それにしても部長、やっぱりラブホテルに来ることに慣れているのだろうか?
咄嗟の判断でラブホだなんて、私には絶対に真似できない。
「ここ、何度か来たことあるんですか?」
「大路はどうなんだ? こういう場所はよく来るのか?」
「あははは、私が来るわけないじゃないですか。」
「そうか。」
ふっと柔らかい笑顔を見せた部長。
どうしたのだろう。なぜそんなに安心したかのように笑っているのか。
そんなに私が倒れたことが心配だったのだろうか? 嬉しくて、少しだけ胸の奥が熱くなる。
「あ、あの、ありがとうございました。まさか部長にここまでしてもらえるなんて思っていなくて。」
「放っておけるわけないだろう。」
「そうですよね。一応私、部長の部下ですもんね。」
「……本当に会社を辞めるのか?」
「……はい。私が十二村製薬にいては迷惑でしょうし。」
「オージスが新規参入しようが大路には関係ないだろう。オージスはお兄さんが引き継ぐんだし。」
「そうですけど、やっぱり居づらいですよ。」
部長は、私が十二村製薬に居づらくなる意味をちゃんと分かっているのだろうか?
好きだった相手と婚約が解消されるっていうのに、同じ会社で毎日顔を合わせることがどれだけ私にとって苦しいか。
きっと何も分かっていないのだろう。
「じゃあ私、本当に帰りますね。お金はテーブルに置いておきます。」
「おい、俺をラブホに一人きりにさせる気か?」
「はあ。むしろ一緒にホテルから出ていくところ誰かに見られる方がまずくないです?」
「はあ。いい加減にしろお前」
上半身を起こそうとしたところで、部長に腕をベッドに縫い付けられる。
ベッドのスプリングが軋む音がして、身体と心臓が同時に強張った。
「な、なにっ、なんですか?」
「俺が簡単に帰すと思ったか?」
「は、はい?! どういう意味!」
「俺はこういうことに『慣れている』んだ。勝手にマフラー忘れて勝手に道端で倒れた罪、今すぐ償ってもらわなきゃ俺の気は晴れない。」
「ちょっ!!」
自分の手首を絞める力が強い。
私を睨みながら眼球の奥まで覗き込んでくる詩太さんの瞳が揺れている。