破断直後のEt cetera

「大路さん、肩に糸くずついてるけど取っていいかな?」 
「あ、ありがとうございます!」

 
 小声で教えてくれて、ベージュ色のジャケットについていた糸くずをそっと取ってくれる。

(楢崎課長って、ビジュアルだけじゃなく女性への気遣いもパーフェクトなのでは?)

 今まで喋りもしなかった癖に、突然気安く『テメェ』だなんて言わないところもポイントが高い。

 
 勝手に頭の中で楢崎課長を称えていれば、フロアの奥から騒々しい集団を見つける。

 まさかと思い目を見張れば、うちの秘書2名が野次馬のようにパーテーションから中を覗いている。

(え……てか、なんでこんなところに?)
 
 他のグローバル部の社員たちも、どうやら赤堀部長に言い寄る十二村部長と高坂さんにじっと視線を這わせている。 

 でも私と楢崎課長を見た途端、急に忙しなさそうに仕事をし始めた。


「別に秘書なんて新たに雇えばいいでしょう! なぜこんな中途半端な時期に異動なんて!」

「そうですよ赤堀部長! せめて内部での希望者を募ってからでも遅くはないのでは?」 

 
 十二村部長と高坂さんの声が聞こえてくる。高坂さんはともかく、十二村部長が誰かに必死に訴えている姿なんて非常に珍しい。

 緊迫感が伴う中、私はわざとらしく眉根を寄せて、めんどくさそうな顔で十二村部長と高坂さんに言った。

 
「おはようございます。朝からどうしたんです? すっごい目立ってますよ?」


 どうせもう辞めるのだから、これくらいの嫌味は許されるだろう。そう思っての言葉だった。


「大路……」

 
 でも思ったような返しはなく、消え入りそうな声で私の名前を呼ぶ十二村部長を見て、少しだけ胸がぎゅっと掴まれる。

 高坂さんに至っては私を睨むように見ているけれど。

 一体どうしたというのだろう?




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