破断直後のEt cetera
「ま、待ってください! あの、わたし、実はこの会社を、」
「部長ミーティングの資料といい、韓国のクライアントへの対応といい、正直営業本部にとどめて置くのは勿体ないよ。もっと君のスキルを活かせる場所で働かないと。」
「いえ、でもあれは! 私個人が勝手にしたことでして、」
隣にいた楢崎課長が、「だからこそ、大路さんの好意が評価されてるんだよ。」と笑っている。
そうか、私の異動……つまり、高坂さんにとっては当然面白くないということだ。
なぜなら先日の外資系への同行を言い渡された高坂さんは、グローバル部に異動できることを期待していたはずだから。
それは理解できるとして、じゃあ十二村部長は? なんで赤堀部長に反論しているの?
「先週の朝、ロビーにいた釜山からの訪問者を対応してくれたろ? 釜山にある大手医薬品メーカーとの業務提携についての打ち合わせの件だったんだよ。」
「そ、うだったんですね。」
「ああ、日韓大手総合病院への販売網の強化に乗り出そうとしていたところでね。あのクライアント先の秘書は君にとても感謝していたよ!」
よかった。韓国語も学んでおいて。まさか詩太さん似の韓国アイドルがいるからだなんて死んでも言えないけれど。
でもこの会社を辞めたいということが言えなくなってしまった。
そこまで私のスキルを買ってくれている上に、この時期の急な異動だ。
自分がどれだけ期待されているのか、赤堀部長本人に言われてしまえば、しかと受け止める他ない。
はっきり言って嬉しい。期待されるプレッシャーはその分大きいけれど、仕事で評価されたのはこれが初めてだ。
緊張と胸の高鳴りを感じる中、十二村部長の顔をそっと見る。
どうやらすでに反論する気はないようで⋯⋯ああ、やっぱり“納得できない”といった表情で腕を組んでいる。
「というわけだから、十二村君! 君の大事な婚約者にはグローバル部で活躍してもらうから!」
ハツラツと言葉にした赤堀部長が、冗談めいた顔で笑う。
何の悪気もなく言った言葉なのだろうけれど、グローバル部全体に響き渡るほどの声だ。他の社員たちも、半笑いといった様子だ。
どうしたものかと、今度は額から冷や汗が吹き出す。すでに解消してしまった事実に、どう伝えるべきか迷ってしまう。