破断直後のEt cetera
「秘書課はフロアの一番奥だよ。赤堀部長だけじゃなく、僕の補助もお願いすることになるからよろしくね。」
「よろしくお願いします!」
楢崎課長が困ったように眉を下げ、小声で私に伝えてきた。
「ごめん、実は僕、婚約解消した話、知ってたんだ。」
「え!? そ、そうなんですね。」
「うん。日曜日に突然十二村に呼ばれてね、十二村の家に行ったんだよ。その時に聞いちゃってさ。」
「楢崎課長、詩太さんの家にまで遊びに行っているんですか?」
思わず自分が一番気になる部分にスポットを当ててしまう。
詩太さんは学生時代は実家暮らしだったが、社会人になってからはマンションで一人暮らししていると聞いている。
私は一度も行ったことがないどころか、場所さえ知らないというのに。楢崎課長が知っているなんて羨ましい。なんとも腑に落ちない。
「あはは、大路さん、十二村のこと『詩太さん』って呼んでるの?」
「あ。いえすみません! つい!」
「あいつ、あの風貌で『詩太』とか笑わせてくれるよね。」
「た、確かに!」
楢崎課長がなぜかお腹を抱えて笑っている。
私、そんなに面白いこと言っただろうか?
「十二村、自分の名前が嫌いなんだよ。男なのに『うた』だなんて“かわいい”響きが嫌みたいでさ。」
「知りませんでした……。」
「でも今度、大路さんから名前で呼んであげてよ。きっと本人もそこまで嫌じゃなくなるはず。」
むしろベッドで押し倒された時は、私に呼ばせていたように思ったけれど。
社内で名前を呼んでしまえば、それこそ相当な威圧感と悪態で返されることだろう。十二村部長の嫌味ったらしい顔が思い浮かぶ。