破断直後のEt cetera
天王寺さんは40代の女性社員で、以前は出版社で英和辞典を編集する仕事に就いていたらしい。
編纂者たちとチームを組み、日々知識と語学を取り込むバイタリティな世界で活躍していた天王寺さんは、その編纂者の一人とご結婚されているのだそう。
いつも簡単に髪を一つに結び、邪魔な前髪を軽くピンで留めている姿は、営業本部の秘書たちとはまるで違う。
仕事を最優先にされているのがヒシヒシと伝わってくる。
私も頑張らないと! と気合を入れて腕まくりをする。緊張で画面がぼやけないよう、しっかりと目を見開き、画面に集中する。
「おはよう大路さん!」
「わっ!! 楢崎課長、おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」
朝のミーティングを終えて戻ってきた楢崎課長に、立ち上がって挨拶をする。
すると課長は笑いながら「座ったままでいいよ」と言ってくれた。
「早速論文の翻訳とは、大変な作業だね。」
「はい。でも天王寺さんに翻訳ソフトを教えてもらいました。」
「……ああなるほど。“錠剤の変色防止”についての論文か。この単語はね、“二酸化チタン”だよ。」
私の背後に立つ楢崎課長が、後ろからパソコン画面を指で差しながら教えてくれる。
全く聞いたことのない用語に顔がこわばり、内蔵が悲鳴を上げる。それでも楢崎課長は、丁寧に馴染みのない単語を教えてくれた。
ふと、課長が自分の肩に振れないよう、気遣ってくれていることに気付く。
それと同時に距離の近さにドキ、とする。楢崎課長はいつからか、私への距離感が近いように思うのは気のせいだろうか?