破断直後のEt cetera
7.君との過去を創るには遅すぎた
「高坂さん、グローバル部に異動できなかったっていうのに機嫌良さそうじゃない?」
「ほんとよね。あ、あれじゃない? 十ニ村部長が大路さんと婚約解消したから!」
2人の秘書が、パーテーションの外まで響かせるような声で、噂話に花を咲かせている。
高坂を含め、営業本部秘書課の秘書は、外見の装いは綺麗にしているものの、仕事よりも噂話にばかり熱心なのが難点だ。
この秘書課ははっきり言って、俺のために作られたようなもの。元々営業本部に秘書課はなく、俺が課長に昇格すると同時にできた場所だ。
営業本部は大きな商談や上層部との会議が多く、ブッキングしようもんなら始末書以上の大打撃となる。
重大な責務を果たすには、日々のスケジュールをマメに確認しなければならない。
だからグローバル部のように、営業本部にも秘書がいた方が効率的だと提案した役員がいた。
その役員は、俺の父親である社長に、果たして1ミリも「忖度」を図っていないといえるだろうか?
自分でスケジュールを確認し、どんな責務でも自力でやり遂げるのは、社会人として当たり前のことだというのに。
いうなれば、この秘書課は業務上必要のないお飾りのような場所。
それでも俺にとっては十分だった。ここが唯一、大路と時間を共にできる場所だと思っていたのだ。
18歳。受験生である俺に紹介された婚約者は、制服のスカート丈が長い中学生だった。
しかも女子校の温室育ち。まさかこんな純粋そうな少女が俺の婚約者だなんて、何かの冗談じゃないかと疑った。
その頃の俺は、受験生でありながらも荒れていたのだ。とてもじゃないが、こんな純粋そうな子に荒んだ俺は釣り合わない。
荒れていた原因は、反抗期や思春期といったものからくる精神面の問題ではなかった。
十二村家のルールに従い、将来、十二村製薬の経営者となることを目標としたレールは、生まれる前からすでに敷かれている。
初めからそういうものだと思っていたから、特に家に対する反抗心はなかった。
ただ毎日勉強に勤しみ、部活にもそれなりに励んで、順風満帆な学生生活を送っていた、はずだった。