破断直後のEt cetera

「大路さんは、凄いよね。こんな容易な言葉で片付けてはいけないけど、やっぱり相当な芯の持ち主だと思うよ。」

「私が、凄い、ですか?」

「うん。だって、幼い頃に十二村っていう御曹司との婚約を決められて、それから十二村のためにずっと努力を積み重ねてきたんでしょ?」

「努力なんて、そんな大層なものでは。」

「大層なものだよ。語学のスキルを国内だけで身につけるのがどれだけ大変なことか。少なくとも辞典の作成を手掛けていた私には分かる。それだけ大路さんにとって十二村との婚約は重要なものだったんでしょ?」


 そこにはまさしく下心しか隠されていないのだけれど。

 私のこれまでの軌跡は、とても十二村製薬に貢献するためだとは言えない。

 天王寺さんの言葉に自信なく頷けば、天王寺さんが神妙な面持ちで言った。 


「例え婚約が解消されたって、大路さんにとってこれまでの努力に無駄なことなんて一つもない。赤堀部長も、楢崎課長も、もちろん私だって、大路さんを尊敬しているよ。」

「天王寺さん……」 
 
「この部署に来た限り、大路さんは孤独なんかじゃない。またこうやって悩みがあれば遠慮なく相談してね。」

「あ、ありがとうございます!」


 顔を見られるのが恥ずかしくなり、深々と頭を下げてお礼を伝える。

 天王寺さんのような大先輩に『尊敬』だなんて言われれば、誰だって目頭が熱くなってしまう。

 この部署には私を認めてくれる人たちがいる。それを常に思い返せば、孤独なんていつの間にか遠のいていくことだろう。 



 結局、部長に議事録を提出できたのは19時すぎだった。楢崎課長はまた別の仕事で、ミーティング以降会えていない。

 楢崎課長への誘いにどう返すべきか。まだ自分の気持ちは固まっていない。


 会社の最寄りの駅までの道を通り過ぎて、散歩がてら次の駅まで歩いて行こうと思い立つ。考え事をしたい時は、よくこうして次の駅まで歩いて帰るのだ。

 途中には川が流れており、川沿いの街頭のある道を歩いていく。木枯らしが吹いて寒さを凌ごうとマフラーに顔を埋めた。




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