破断直後のEt cetera
(課長の家に行ったとして、もし付き合ってほしいって言われたらどうしよう。)
おこがましい悩みではあるものの、まだ私と部長が婚約を解消したのはつい1ヶ月前だ。
悔しいけれど、十二村部長の言うことは間違っていない。
もし社内で課長との関係性が出回れば、私もろとも課長の評判が悪くなるのは目に見えている。冷静な頭で考えれば分かることだ。
(やっぱり、課長からの誘いは断ろう!)
早めに課長に返事をした方がいいと思い、コートのポケットからスマホを取り出す。
川沿いに等間隔で並ぶベンチに座り、玄也さんのお店で交換したメッセージアプリの画面を開いた。
この時期の川沿いの空気は冷たく、すでに20時近くとあってか人はまばらだ。
春には桜が満開を迎えるものの、2月の枯れ木には枯れ葉すら残っていなかった。
向こう岸の川沿いに並ぶ、寒々しい木々の間をカップルが歩いていく。
やたら身長の高い男性に対し、隣で腕を組んで歩く女性は背が低い。その身長差が可愛らしくもあり、ついじっと見つめてしまう。
でも街頭に照らされた男性のコートには見覚えがあった。
(あれ。もしかして、部長……?)
背丈といいチェスターコートのデザインといい、十二村部長だ。
ふと、向こう岸の部長が私の方に顔を向けた。
目が合いそうな瞬間、スマホをポケットにしまって鞄を持つ。鞄を持つ手に、自然と力が籠る。
(もういやだ。こんな場面に出くわすのも、掻き乱されるのも――――。)
ベンチから立ち上がって走り出す。
(キスしたくせにキスしたくせにキスしたくせに――――)
私を煽るため? まさか、そんなはずがない。
だって私がここにいることを部長が知っているはずなんてないのだから。
『煽る』ためだというのは、いつだって私が近くにいることを想定した上で実行するものだ。