破断直後のEt cetera

 さっきいた女性は、顔は全く見えなかったものの、背丈は志水さんでも高坂さんでもない。2人とも私より背が高いのだ。

 また違う女性と関係を持っているとでもいうのだろうか? 

(違う、これは想定内だよ未怜……。そんなこと最初から分かってたことでしょ?)

 もしかして、本当は本命がいたのかもしれない。

 こんな会社の近くで腕を組んで歩いているのだ。

社内の人間に見つかるリスクは部長なら考えていたはずだ。見つかってもいいから堂々と腕を組んでいたのではないだろうか。

 冷静になんてなれるはずもない。

 あの人を見る度に私の涙腺と心はぐちゃぐちゃで、いつか私の心は燃え尽きてなくなってしまうんじゃないのか。

 いっそ早く燃え尽きてこの世からいなくなれれば楽になれるのに――――。

 感情的になりすぎて、悲観的な思考が最上級に達する。

 しばらく走った先の角を曲がり、小さな公園の前でしゃがんでうずくまる。

 泣きたい気持ちを押し殺し、マフラーで極限まで顔を隠した。何度も溢れ出そうな涙を呑み込む。

 馬鹿馬鹿しいほど悲劇めいた自分の姿が、今どれだけ憫然たるものか。

 そうまでして私は、私は――


「大路さん? 大丈夫?」


 柔らかな声に、しゃがんだまま振り返る。
 
 するとそこには、モカ色のスタンドカラーコートを羽織り、ダークブルーのスーツに身を包む楢崎課長が立っていた。

 中腰になり、私に指の長い手を差し伸べる。
 

「お嬢さん。どうせ泣くなら、僕の胸で泣いてみない?」 
  

 楢崎課長に支えられながら、膝がよろめくように立ち上がる。

 立ち上がると同時に、課長の胸に抱き寄せられた。

 呑み込んだはずの涙の瓶が、容量オーバーといわんばかりに栓が抜け落ちる。



  


< 75 / 124 >

この作品をシェア

pagetop