破断直後のEt cetera
「な、ならさき、課長、」
「なんていうか、もう見てられないよ。こんなに弱っている大路さんをこのままにはしておけない。」
課長がビジネスバッグをアスファルトに下ろして、両手で私を抱きしめる。
ドクンっと高音で鳴り響く鼓動と、今にも堕落しそうな思考回路。
自分の気持ちを有耶無耶にして、このまま身を預けたい欲に、心と身体が傾いていく。
ふと、楢崎課長の匂いがした。
ここまで男の人と接近したのは、課長で2人目だ。十二村部長のハーブのような香りとは違う、柔らかいアンバーな甘さ。
この人に甘えてしまえば、どれだけ楽になれるだろう。
「最初に大路さんをグローバル部に推薦したのは、僕だよ。」
「え?」
「赤堀部長に、推薦してもらうよう掛け合ったんだよ。大路さんほどひたむきな人はいない。」
「そ、それは……」
「もう、僕にしておきなよ。これからは僕が大路さんを支えるから。」
後頭部を撫でられて、楢崎課長が私の首筋に顔を埋める。
素肌に課長の生温かい吐息がかかる。首筋の血管一本一本が熱くなっていくのが分かる。
私自身を認めてくれる人に、ようやく出会えた気がした。
どれだけ語学の検定試験に受かっても、両親からは『十二村の婚約者として素晴らしい行い』だと、婚約者の立場として褒められてきた。
両親はオージスの経営を発起させることに必死だったから、私が十二村製薬に貢献できるような功績を残せば、当然嬉しいに決まっている。
でもそれは、私自身の努力を認めてくれているわけじゃない。
両親にとって私の功績は、十二村製薬への利点でしか図っていなかったのだ。
オージスの後継者である兄の教育に力を注がなければならないのだから、私のことは二の次だったのだろう。