破断直後のEt cetera
高い植木のある、うちの門の前に到着した。塀につけられた電球照明が、私の帰りを待ちわびている。
「大路、明日、バ……ザッハトルテの材料用意して持ってこい。金は後から払う。」
「『バッハトルテ』で検索したら『ザッハトルテ』が出てきたんですね?」
「うちでそのザッハトルテを作れ。明日13時に迎えに来る。」
「なんで私には命令口調。高坂さんには高級チョコあげた癖に。」
皮肉を言うも、シートベルトを外すボタンが固すぎて、上手く外せない。
代わりに部長がボタンを押して、ベルトが私の服に擦れないよう、気を図らいながらゆっくりとベルトを外してくれる。
頬が触れそうな距離の近さに、心臓が大きく波打つ。
「ああ、コインチョコな。金貨を象った高級感があるやつな。」
「は、コインチョコ?」
「高坂が送ってきたどっかのブランドの画像が、コインチョコにそっくりだったんだよ。だからコンビニに売ってたコインチョコをやった。」
「嘘でしょ?! あの高坂さんにコインチョコあげたんですか?!」
「他の秘書と『分けろ』といってやった。あの絵柄、けっこう細かいし、型作るだけでコストかかってそうだよな。」
コインチョコはそりゃ美味しいですけど。しかも3人の秘書で一袋ってこと?
吹き出すのも忘れて呆気に取られる。
(あの高坂さんがコインチョコ受け取ったの? というか部長、大事な秘書に“日頃の感謝”という気持ちはないわけ? どんな神経してるの?!)
高坂さんが得意げに、『私、今日の朝貰っちゃったのよねえ。』と言っていたことを思い出す。
高坂さんは私に自慢したかったわけじゃなく、きっと十二村部長に高級チョコが貰えなかった腹いせに、私に八つ当たりをしてきたのだろう。
部長のせいで、とんだとばっちりだ。
「部長って、意外と人望なさそうですよね。」
「どういう意味だ?」
部長に怪訝な顔を向けられたので、そそくさと車から出ていった。
優秀な人だとばかり思っていたけれど、部長は案外不器用なのでは?